音楽教員歴10年の原口直です。
音楽の人気・認知を何で計るか。著作権を含む知的財産権教育を、中学校音楽科で10年間実践してきました。
授業の導入でいつも使っていたのが「年間のCD売上」のデータ。1位は何万枚売れて、アーティストにいくら?作詞家には??という話から、CDの裏側にいる人々に目を向けさせて著作権の話をしていくという流れです。
音楽の人気を計ると言えば、オリコンのCDチャート。1990年代CDどっぷり世代の私としては、この一択でした。アーティストもオリコンチャートを目標としていること公言していましたし、例えテレビやラジオでランキング番組があっても、オリコンと大差ないラインナップでした。
しかし、10年の授業を進める中で、「おや?」「むむ」「何とかせねば」と思うことが。
世間の人気の指標として使っていた『オリコン年間CD売上ランキング1位』の称号が、徐々に『人気の指標』でなくなり、ついには『認知の指標』でもなくなってしまいました。
音楽に多感なはずの中学生が1位の曲を知らない・聴いたことない・持っていないという事態に陥ったのです。
つまり、「知らんけど売れてる。」
これは授業の導入では弱い。
中学生を彼らの全く興味のない世界に引き込むって、大変なんですよ。「こっちだよ~おいしそうだよ~~」というニンジンが必要なのです。それがオリコンチャートでは弱い。正確に言うと、オリコンチャート「だけでは」弱い。
中学生が納得する音楽のモノサシとは何か考えてみます。
オリコンチャートは進化している!
以前は、
・シングル・アルバム
くらいだったのが、今では
・合算シングル/アルバム(内訳は後述)
・シングル/アルバム
・デジタルシングル(単曲)/アルバム
・ストリーミング
と音楽を計るモノサシの種類が増えています。
シングル/アルバムの集計
販売している全国のCDショップや家電量販店などの販売実績をもとに全国の推定売上を算出したものとなっています。
1990年代はこれでよかったのでしょう。今はCD=音楽のデータが入っているピカピカの円盤ではないです。付属品が多い。ミュージックビデオDVD、写真、イベント参加券、先行販売などの特典、豪華なブックレットなどなど。
よって、集計の基準が増える。CDの単なる数ではなく、CDの定義、1イベントあたり購入者数×3枚を上限…CD付きコンサートチケット…多様化するCDの形をどのように算出するかが書いてあります。
オリコン合算ランキング
CDの売上枚数・デジタルダウンロードのDL数・ストリーミングの再生数を合計したランキングです。ダウンロードとストリーミング反映方法は、これまた複雑な数式が組まれています。
オリコンニュースの「オリコン合算ランキングの集計方法について」に記載されている反映方法の計算式は次の通りです。
デジタルダウンロードのDL数
(1)収録曲を1曲単位で購入した場合
単曲DL数の合計を2.5で割った値を換算売上ポイントに加算
(2)作品をまとめて購入(バンドル)した場合
1回のバンドルDL = 1ポイントとして換算売上ポイントに加算ストリーミングの再生数
定額制音楽ストリーミングサービス有料会員の再生数が対象
(1)合算シングルランキングの場合
再生数の合計 300回 = 1ポイントとして換算売上ポイントに加算
(2)合算アルバムランキングの場合
再生数の合計 1,440回 = 1ポイントとして換算売上ポイントに加算
オリコンチャート以外のモノサシ
アメリカのビルボードが出すランキングの日本版があり、オリコンとはちがうモノサシです。
CDセールス、ダウンロード、ストリーミング、ラジオ再生、動画再生、ルックアップ(PCへのCD読み取り数)、ツイート、カラオケの8種類のデータからなる総合ソングチャートとなっています。ビルボードチャートは歴史や知名度から、重要視されるモノサシの1つです。
他にも、配信する会社やカラオケ会社が出すランキングなど多種多様なモノサシを持っています。
私が授業に採用した人気・認知度のモノサシ
その中で、しっくりきたのが毎年発表されるJASRAC賞です。
明朗会計な算出からはじき出された異種格闘技
算出方法はいたってシンプルで「どれだけ使われたか。」
音楽配信、カラオケ、CMでの利用など、前年度に著作物使用料の分配額が多かった作品に贈られる賞です。
このランキングが興味深いのは「よく聴くよね~わかる」という曲と「なにゆえ??」という曲が、時代やジャンルを超えて混ざっていることです。
2020年国内作品【総合】の分配額ベスト10(詳細はJASRACのサイトより)
1位(金賞) Lemon/米津玄師
―うん、わかる。よく聴くし、ランキング上位によく出るわね。中学生の人気・認知ともトップです。
2位(銀賞) ドラゴンクエスト序曲/すぎやまこういち
―ん?
3位(銅賞) 糸/中島みゆき
―んん?2020年ですよ。しかも、4度目のベスト3???
と、頭が「?」になるわけですが、4位以下はさらに異種格闘技の様相…
4位 残酷な天使のテーゼ/高橋洋子
5位 UFO/ピンク・レディー
―ますます??? エヴァに、『阿久悠』大先生!
6位 マリーゴールド/あいみょん
―ちょっと箸休め。
7位 とんちんかんちん一休さん/ヤングフレッシュ
―?????
8位 東京VICTORY/サザンオールスターズ
―いったん正気を取り戻す。
9位 俺ら東京さ行ぐだ/吉 幾三
―もはや標準語ではない。
10位 366日/HY
―名曲ではあるが、2008年の作品
見ていておもしろいんですよね。歌手やキャラクターが1つのリングに上がっていると想像するだけで笑えます。
そして、理由を想像します。何年も前の(作品によっては何十年も前!)作品が、2020年のベスト10に入るなんて。歌手や作った人にとって、夢がある世界だなと感じます。
他の部門では、
1位 NARUTO-ナルト-疾風伝BGM
1位 U.S.A./JOE YELLOW・DA PUMP
が発表されています。各ベスト10も、なかなかの異種格闘技です。
国際賞は布袋さんにアニメ・ゲームとピコ太郎、ムーミン、YOSHIKIと強者揃いです。
中身の違うベスト3の3曲
国内作品【総合】の分配額ベスト3に戻りましょう。
《Lemon》《ドラゴンクエスト序曲》《糸》
3曲の使われ方がまっっったく違うのもおもしろいところ。分配構成比も公開されています。(詳細はJASRACのサイトより)
《Lemon》
インタラクティブ配信(YouTubeなど)とカラオケの両分野で2年連続の分配額1位で金賞。CDが微々たるものである反面、YouTubeでは2020年5月時点で5.6億回再生!すごい!!私もだいぶ貢献してます。
《ドラゴンクエスト序曲》
CMがテレビで継続的に利用されたほか、配信や演奏にも使われました。そして、ロングヒット。第1作の1986年から使われ続けています。さらに、2019年は40公演以上のオーケストラ、吹奏楽、ジャズなどのコンサートで演奏されました。小学校の時、イントロのファンファーレをピアノで弾けるだけでヒーローになれましたね…
《糸》
この曲は何といってもカラオケ!1992年に作られ、1998年のドラマをきっかけに、じわじわ、なが~く愛されています。また、アーティストのカバーも多い。結婚式場等における演奏も。曲の力を感じます。
最後に:皆さんの音楽の人気・認知度を示す「モノサシ」は何ですか?
ちなみに過去5年のベスト3は
2019年《Hero》《UFO》《糸》
2018年《恋》《ドラゴンクエスト序曲》《UFO》
2017年《糸》《名探偵コナンBGM》《ドラゴンクエスト序曲》
2016年《R.Y.U.S.E.I.》《恋するフォーチュンクッキー》《糸》
2015年《恋するフォーチュンクッキー》《進撃の巨人BGM》《ルパン三世のテーマ’78》
音楽を聴く機会が増える中、どのような曲が世間に選ばれるか。そして、自分はどうやって選び取っているのか。
皆さんの音楽の「モノサシ」は何でしょうか。
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