皆さん、こんにちは。一歩先ゆく音楽教育、原口直です。
現在は学校での教育研究の経験と、未来につながる新しい学びについて情報発信しています。
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今日は教員採用試験に出題された著作権に関する問題についてお話しします。
学習指導要領には「著作権・知的財産権」に関する内容が小中高校の様々な教科にわたって書かれています。
音楽以外にも全校種の国語、中学では美術や技術、そして高校では芸術全般と情報。ここに知的財産権や著作権のことが書いてあります。
学習指導要領に載っているということは、教員採用試験にも出題されます。
出題されている傾向として東京都の問題を確認します。東京都の教員採用試験の第1次選考>専門教養の中には著作権・知的財産権に関する出題がありました。小・中共通、中・高共通の音楽と高等学校の情報に出題があります。
今回お話する小・中共通、中・高共通の音楽では、3年連続で著作権に関する問題が出題されました。
初めて掲載されたのが令和2年度実施からです。令和2年度実施で令和3年度に採用された音楽の先生は、著作権に関しての内容を知っているということです。
教員採用試験での著作権の問題について皆さんに知っていただくことで、全教員が教採をもう一度勉強しなければいけないということではなく、「音楽の先生は著作権について知っているんだ、詳しいんだ」という事を皆さんに知っていただきたいと思います。
学校著作権のルール(原則と例外)
まずは原則のおさらいです。
著作権は知的財産権の中にあり、言語や音楽・美術・写真などがあります。
作った瞬間に作った人に著作権、権利があります。「作品は作った人のもの。使う時・増やす時・変える時には作った人に許諾が必要」ということが書いてあり、一定の条件で学校は例外、つまり許諾を取らなくて良いということが書いてあります。
過去2回の東京都の教員採用試験では、いずれも著作権の侵害に当たらない行為を一つ選び取るという問題でした。ぜひチャレンジしてみてください。またそれについては「教員採用試験 著作権分野の過去問を解説します(令和2年度・3年度)」の動画で解説しています。詳しく知りたい方はそちらもご覧ください。
また他の都道府県の教員採用試験について、東京都の場合はウェブ上にすべての問題・解答が公開されていますので紹介していますが、他の道府県では公開されておらず、その道府県に取りに行かなければいけないとか、郵送で申請しなければいけないという風になっているものがあります。
他の道府県でも著作権に関する問題が出ているところがあるようですので、詳しく知りたい方は資料を取り寄せたり、過去問が載っている問題集などを買ってみてください。
教員採用試験の著作権に関する設問
それでは実際の問題を見てみましょう。令和4年度に実施された令和5年度採用の問題です。問題文を読みます。
「著作権の侵害に当たらない行為に関する記述として、我が国の著作権に関する法律に照らして最も適切なものは次の1~4のうちではどれか。ただし、著作者または著作権の権利を有する者が著作物の権利を放棄しておらず、保護期間を超えていないものとする。また、いずれの行為も著作者または著作権の権利を有する者の許諾を得ていないものとする。」
このような問題です。
選択肢は4つ、侵害に当たらない行為は1つです。
1 教員が、自身の担当する授業で児童・生徒に視聴させるためテレビの音楽番組を録画し、授業に利用した。
2 教員が、自校の校歌を混声四部合唱に編曲し、児童・生徒が伴奏、歌唱した録音音源を学校のホームページに掲載した。
3 教員が、校内研修の資料として使用するため、児童・生徒が歌唱した合唱曲の楽譜を参加者全員分複写し、配布した。
4 教員が、合唱部の定期演奏会を入場料を徴収せずに、観客全員から寄付金を募るチャリティーコンサートとして行い、楽曲を演奏した。
侵害に当たらない行為は1つです。どれでしょうか?考えてみてください。
解答・解説
正解は1番です。1番の行為は著作権の侵害に当たらない行為です。
では他の3つはどのような点に問題があるのでしょうか?解説します。
問題を理解するポイントは著作権法第35条
まずは問題文の理解からです。
「ただし」の後をご覧下さい。著作権の権利を有するものを「著作権者」と言って、作った人と別の場合もあります。作った人か権利を持っている人がそれを放棄していないということ。
また、保護期間を超えていない。著作権の保護期間は、作った人・著作者が亡くなってから70年と決められています。70年以上経っているものは許諾を得ずに使うことができます。
「また」の後の部分は今年度の問題から初めて追加されたものです。著作者や著作権者の許諾を得ていない場合というのが条件に入っています。
著作物を扱うどのような行為でも、著作者・著作権者の許諾を得られれば使うことが出来ますので、今年度からこの文章が入ったということは「許諾を得てない場合ですよ」ということを強調したいのだと思います。
この「ただし」の後や「また」の後にあるように、著作物を利用する際には許諾不要で使える場合もあるので、こういった例外を注意してみましょう。
著作権第35条では、ここで詳しい説明は致しませんけれども、「学校は例外ですよ」ということが書いてあります。許諾を得なくていい範囲です。
35条の中に書いてあるのは、学校であること・教員と子どもとのやりとりであること・授業であること・必要の最小限であることや公表されている著作物であること、そしてオンラインは有償ですよというのは35条が改正されて書かれたものです。詳しくは「【教員のための著作権解説】著作権法 第35条って何?」の動画もご覧ください。特に授業の範囲がどこまでかというのはとても重要です。
今回のこの選択肢は、第35条の範囲内であるかというところが正解を導き出すポイントです。
まず正解である1番。
教員が使っていますし児童生徒に視聴させているので条件はクリアしています。また「授業に」と明確に書いてありますので、こちらは第35条例外の要件に当てはまりますので、侵害をしていないということです。
校歌の著作権の扱いは他の楽曲と異なるので注意
では2番以降は何が問題なんでしょうか?
教員が学校の授業の中で行う場合には、例えば曲を編曲したり演奏したりすることは問題はありません。学校の授業の中で児童生徒にさせる場合でしたら大丈夫です。
しかし、問題なのは「学校のホームページ」というところです。ホームページに掲載することで誰もが耳にすることができます。元となる校歌の原曲を流すのは問題ないのですが、編曲したものについては誰もが聴ける状態というのは問題がありそうです。作詞家や作曲家に許諾を得る必要があります。
校歌の原曲の公開について、なぜいいかというと、JASRAC上では学校のホームページに校歌曲を載せるのは問題ないと書いてあります。校歌の扱いについては他の楽曲とちょっと違うので注意が必要です。
続いて3番は何が問題なのでしょうか?
まずは教員と子どもの関係ではないということです。この場合、教員の校内研修ですので他の教員ということになります。こうなると35条の要件には入りませんのでバツとなります。
チャリティコンサートでもJASRACへの申請は必要です
では4番、これはひっかけだなぁと思いました。何が問題でしょうか。
合唱部の定期演奏会を行う際、入場料を徴収しないこと、また演奏者に報酬がないこと・非営利であることをクリアできれば許諾を得ずに演奏することができます。
しかしチャリティーコンサートでは、寄付金だとしても入場料を徴収した場合と同じになるので、許諾を得るか必要な金額をJASRACに申請しなければいけません。
注意点の1つ目に、「チャリティーコンサートは観客から募金を受け取るので手続きが必要です。なおJASRACでは寄付先や寄付金額などにより無償許諾や著作物使用料の減額を行っています」と明記されています。
通常に入場料を取る場合と支払う額が違うということです。違うとはいえ許諾が必要ですので気を付けて下さい。
このように、著作権法第35条の要件に当てはまっているかどうか?、教員と子どもとのやりとりであるのか?、また授業であるのか?、目に触れるのが最小限であるのか?、こういったところに着目すると答えが導き出せます。
では、どうすれば使うことができるのか?
もちろん許諾を得れば使うことができるのですが、他の方法で許諾を得ないで使える風にするにはどのようにすればいいのか?その内容については、「原口 直の学校著作権ナビ」で後日詳しくお話します。
解答だけでなく解説をじっくり聴きたいという方は是非「原口 直の学校著作権ナビチャンネル」で続きをご覧下さい。
まとめ:令和4年教員採用試験(東京都) 著作権分野の問題(解答・解説)
今日は教員採用試験で問われた著作権に関する問題について解説しました。さらに詳しい内容もお話していますので、ぜひそちらもご覧ください。
学習指導要領になったということは教員採用試験にもありますし、もちろん教科書にも載っています。ぜひとも皆さんも著作権に関する情報を得てみてください。そして確実な情報を子どもたちに伝えるように、保護者の方にも伝えるようにしてください。
記事の内容は動画と同じです。
動画「令和4年教員採用試験(東京都) 著作権分野の問題(解答・解説)」も是非ご覧ください。
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