2026年8月10日、青森県高等学校教育研究会 音楽部会の研修会で、「これからの『郷土の伝統音楽』指導法と新学習指導要領」をテーマに120分の研修を担当しました。会場は青森市内の施設。午前の研修に続いて、県内の高校音楽科の先生方約30名とご一緒しました。
生成AIと伝統音楽は、一見いちばん遠い組み合わせに見えるかもしれません。しかし、この2つを並べることで見えてきた授業のヒントがたくさんありました。
午前に行った著作権の研修は、原口直の学校著作権ナビで報告しています。

県内各地の高校音楽科の先生方と
AhaSlidesで参加した先生方の専攻を尋ねると、声楽(9名)とピアノ(8名)が多く、音楽科教育、作曲・楽理、管楽器と続きました。「昨日聴いた曲」には、ラフマニノフやブラームスから合唱曲、ラジオ体操まで幅広い答えが並び、会場が和やかになります。
そのうえで「『伝統音楽』の指導で困ったこと」を尋ねると、切実な声が集まりました。
- 「経験したことがないから口でしか語れない、動画を見せるだけになりがち。」
- 「能を鑑賞させると生徒が寝る。歌舞伎では寝ない。」
- 「前任校にあった箏が現任校にはない」
- 「津軽三味線の先生をお招きして津軽じょんから節を教わる授業をしている。だけど、何時間も授業の時間を割けないので3時間で終了。」
自分が体験していない音楽を、限られた時間と楽器でどう生徒に届けるか。これは青森県に限らず多くの音楽科の先生が抱える悩みではないでしょうか。
研修の具体的な内容(主なトピック)
1. 生成AIを活用した教材づくり:「バッハ先生」と話してみる
最初に紹介したのが「バッハ先生」です。中学校音楽科教員という設定で、GeminiのGem(自分用に設定を保存できるAI)として作ったものです。
たとえば「歌をうまく歌えるようになりたい」と無料版のAIに聞くと、間違いではないものの一般論すぎる答えが返ってきます。そこでバッハ先生には、次のような条件をあらかじめ設定しました。
- 学習指導要領や文化庁の通知、教育委員会の公式資料、査読付き論文を参照する
- 根拠のない断定や事実の捏造をしない
- 書籍を紹介するときは、書名・著者名・出版社・出版年・ISBNの5点を示す
- 楽譜の作成を頼まれたら生成できないことを明示する
当日は青森県専用版のバッハ先生を用意し、先生方に自由に質問していただきました。利用は任意であること、入力した内容を原口は一切見られないこと、個人情報は入力しないこと、AIの回答が正確とは限らないことを、事前にお伝えしています。
後半は、ご自身で「バッハ先生」のようなカスタマイズしたGemを「作ってみよう」の時間です。設定したい条件を決めて登録し、AIとの会話で修正しつつGemやGPTsに落とし込む。この流れで、先生方ご自身のAI相談相手づくりを体験していただきました。
2. 郷土の伝統音楽を教材化する際の注意点
私自身、大学時代に和太鼓や民族舞踊のサークル活動に打ち込み、加藤富美子研究室で学びました。三宅島や八丈島の太鼓、青森県の荒馬、岩手県の中野七頭舞などのフィールドワークや、保存会の講習にも参加してきました。元中学校音楽科教員として授業で実践するなかでも大切にしてきたのが次の3つの言葉です。
- 尊敬:音楽そのもの、受け継がれてきた伝統、担い手の熱意と責任、生活や仕事と両立しながら続けてこられたことへの敬意
- 謙虚:継承者にはかなわない。見せていただく、教えていただく、教材にさせていただく、という姿勢
- 真剣:教材研究をし尽くし、授業で何を教えたいのかを明確にしたうえで、音楽の魅力を伝える
そして、最後に問いかけました。「この3つは、西洋音楽の授業でもできているだろうか」と。伝統音楽だけが特別なのではありません。どの音楽にも通じる姿勢なのです。
3. 生活や社会との関わり:「民俗芸能×●●」「歌舞伎×●●」
高校生の生活や社会と伝統音楽をつなぐアイデアを、先生方に出していただきました。
- 「歌舞伎×メイク オペラやミュージカルにも繋げられる?」
- 「民俗芸能×SNS(→どうしたらバズる?)」「歌舞伎×お金(→歌舞伎役者は儲かるのか)」
- 「三社大祭と地域活性化(現在総探でやってます)」
- 「地元の秋祭りに全校参加するので、なんとなくお囃子が生徒の耳に残っていると思います。」
地域の祭りや総合的な探究の時間とつながる、青森ならではのアイデアが多く出ました。
4. 次期学習指導要領の検討と音楽科
文部科学省の芸術ワーキンググループの配付資料から、音楽科に関わるデータを確認しました。たとえば高校の音楽Ⅰでは、次のような結果が示されています(いずれも令和6年度高等学校学習指導要領実施状況調査の暫定値)。
- 我が国や郷土の伝統音楽について、生徒が「興味・関心をもちにくい」と教師が捉えているのは約4割
- 外部の人の協力や学校外の施設を活用した指導の工夫について、肯定的な回答は約3割
冒頭で先生方から出た「困ったこと」と全国の傾向が重なって見えます。最後に、こうした資料をGoogleのノートブック機能に読み込ませ、AIと対話しながら読み解く方法も体験していただきました。
研修のポイント
伝えたかったのは、「尊敬・謙虚・真剣」という姿勢を土台に、生成AIを一人で悩まないための道具として使ってほしい、ということです。
AIの回答はそのまま信じるものではありません。バッハ先生のように条件を設定しても確認は必要です。しかし、経験のない分野の最初の一歩を支えてくれる相談相手にはなり得ます。
参加者の声
研修主催者の声
ご担当の先生からは、役立った内容として、新しい知見である「バッハ先生」「Gemini Notebook」「Suno」、そして「郷土の音楽を取り扱う方法」を挙げていただきました。3年前の研修が好評だったことから、「さらに深く学びたい」とご依頼くださったそうです。
「バッハ先生」を使ってみた先生方の声(一部抜粋)
即興演奏の指導の流れについて質問した。自分が指導する流れや重要と思うポイントがかなり押さえられていて正直驚いている。もう少し会話してみたい。
“吹奏楽部の顧問してるけど指導力なくて辛い”って相談した。そしたら順番を追って具体的な実践しやすいアドバイスを沢山くれた。
発声を深くするために喉を下げる指導をしているが音色が暗くなってしまうと相談した。返答は全て自分が実践済みのもので、あまり目新しいアイディアがなかった。
リコーダーの譜読みを聞きました。わかりやすくてよいですが解答が同じ内容の繰り返しになってしまったので、質問の仕方を考えないといけないと感じました。
手応えを感じた声と物足りなさを感じた声の両方をいただきました。AIの得意・不得意を、先生方ご自身が体験を通してつかんでくださったことが何よりの収穫です。
研修参加者の声(一部抜粋)
毎年、高教研が終わったあとに勤務校に帰ると孤独感に苛まれる感覚がありました笑。自分一人では力不足で上手く授業を展開できない…、そのような悩みを、AIを活用して乗り越え生徒に還元できるヒントをたくさん得ることができて大変心強いです。
生成AIと伝統音楽というある種一番遠い分野が、ペルソナという味方を通して自分では考えつかない面白い授業ができるかもしれないという可能性を感じました。
郷土の伝統音楽を実践する際は、音や音楽から、生徒は何を聴き取り感じ取れそうかをヒントに、やってみたいと思えました。
gemで原口先生を作りたいと真剣に考えました。
おわりに
同じ県の先生方が一堂に会して悩みもアイデアも持ち寄れる場はとても貴重です。一日を通して真剣に、そして楽しく取り組んでくださった青森県の先生方に、心より感謝申し上げます。
伝統音楽も生成AIも、一人で抱えると難しく感じるかもしれません。しかし、尊敬・謙虚・真剣の姿勢と頼れる道具があれば、きっと一歩を踏み出せます。今回の研修が、2学期からの授業づくりのヒントになれば幸いです。
研修のご依頼について
音楽科の部会・研究会向けに、伝統音楽の指導法、生成AIの授業活用、著作権などを組み合わせた研修を承っています。内容や時間はご相談に応じて組み立てますので、お気軽にお問い合わせください。







