大谷能生(2019)『平成日本の音楽の教科書』で、公開研究会での授業実践「音楽の聴き方を知り、好きな音楽を選び取ろう」を紹介していただきました。
音楽の演奏・批評で数多くの著書がある大谷能生さん。
小学校・中学校・高校で使用されている各社の音楽科の教科書を分析し、リアル音楽の視点から批評した書籍です。「ビジネス音楽やポップスを知る側」と「学校音楽科教員側」の両面を知る私からすると、代弁・解釈してくれている話、痛快な話、耳の痛い話ばかりです。
その中で「とても面白い授業だと思います。実際の授業と題材、指導要領との接続の仕方についても、なるほど、と興味深く思いました。」と、音楽の嗜好を考える授業を取り上げていただきました。
音楽配信サービスがおすすめ曲を勧めてくる「恐怖」
この授業は平成30年度の公開研究会で発表しました。
定額制音楽配信サービスが普及する中で「おすすめ」に曲を勝手に選ばれる恐怖…から考えた授業です。
「聴きたい曲」から「聴かされている曲」になり、そこには作者や演奏者、レコード会社、時には曲のタイトルさえ不在になります。著作者への意識の薄れが懸念されることから、「自分のほんとうに好きな曲」を自分の耳で聴き、自分の心で選び取る授業をしたい!と思ったのです。
教員の前にビジネス音楽を見ていたことから、メジャーな曲は「聴かされている曲」であることに否定はしません。しかし、それでも選び取る行動として90年代までは、ランキングを知る、音楽番組を観る、CDショップに行くといったハードルはありました。
定額制音楽配信サービスではいくつかの「おきにいり」に入れると「おすすめ」が自動的に聴かされたり、「朝のリラックスタイム」「ランニングで聴きたい」などのプレイリストで聴かされたりします。もはや自分の選択が少ないのです。
それに危機感を感じて、生徒に「好き/嫌い」「なぜ好き?なぜ嫌い?」を考える授業をしました。
音楽の好き嫌いを自分で判断させることの重要性
『平成日本の音楽の教科書』では、
「好き嫌いで音楽を考える、ということは、学校の授業からすでに離れた作業です。」
「二十世紀はポピュラー・ミュージックの世紀であり、それはもう歴史として確定した事柄だと考えて、なるべく多数のポップスに触れて、その魅力を理解し、互いの「好き嫌い」にまで踏み込みながら、生徒それぞれの「個性」を引き出してゆく。また、そのことによって、音楽の授業を、その外側に広がる「現在の社会」との接点に向かわせてみる。これは教師にとってかなり挑戦的な試みになるかもしれません。」
と好き嫌いを自分で判断させることの重要性と、教員への働きかけを求めています。
まったく同感です。
「学校の音楽」と「社会の音楽」に違いがありすぎたからこそ、私は教育実習で打ちのめされ芸能事務所に行くことになるのです。ライブハウスもクラブも、大学を卒業して初めて良さを知りました。
違いはあってもいいです。でも、「違いがあるよ」ってことは早めに知りたかったです。学校音楽を真剣にすればするほど、社会の音楽とは乖離していったのが私の音楽史です。
中学校以外にも小学校・高校の教科書も詳しく痛烈に書かれています。
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