近年、生成AIの技術が急速に進化し、教育現場でもその活用が注目されています。しかし、音楽科の授業でどのように活用できるのか、どのようなリスクがあるのかを正しく理解することが重要です。
この記事では、文部科学省が発表したガイドラインを基に、生成AIの活用方法と注意点について解説します。
生成AIと文部科学省のガイドライン
生成AIとは?
生成AIとは、大量のデータを学習し、統計的なパターンを解析することで、新しい文章や画像、音楽を自動生成する人工知能技術のことを指します。教育分野でもその活用が進められていますが、専門家によって賛否が分かれています。
文部科学省の方針
文部科学省は、2024年12月26日に「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」を発表しました。このガイドラインの策定に先立ち、文化庁の著作権課が2024年4月に「AIと著作権」に関する審議を行いました。その後、教育関係者や専門家による会議が開かれ、7月から12月にかけて計7回の検討会議が開催されました。
ガイドラインの内容は、以下の点を中心にまとめられています。
- 人間中心の利活用: 生成AIの利用において、リスクや懸念を踏まえた上で、人間が最終的な責任を持つことが求められる。
- 情報活用能力の育成: 近い将来、生成AIを使いこなすための力を意識的に育成することが重要とされる。
- 教師の役割の強化: 生成AIの活用が進む中で、教師が学びの専門職として情報活用能力を指導する役割が一層重要になる。
- 著作権への配慮: 生成AIが生成したコンテンツに既存の著作物が含まれる可能性があるため、適切な著作権管理が求められる。
また、ガイドラインでは、生成AIの活用場面について以下の4つの項目を示しています。
- 教職員が校務で活用する場面
- 児童生徒が学習活動で活用する場面
- 教育委員会など指導する立場の人が押さえておくべきポイント
- 共通して押さえておくべきポイント(著作権や情報モラルを含む)
ガイドラインの詳細やチェックリストなどは、文部科学省のホームページに掲載されています。
是非ご覧ください。
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具体的な活用例と注意点
授業準備と教材作成
生成AIを活用することで、以下のような授業準備や教材作成が可能になります。
- 情報収集: 生成AIは例えば音楽史や作曲家についての情報を整理するのが得意です。時代背景や作曲家のスタイル、使用楽器などの詳細なデータを収集できます。
- 作曲やアレンジのサポート: 生徒が作曲やアレンジに取り組む際に、生成AIを活用してアイデアを得たり、技術的なサポートを受けるために活用することができます。例えば「クリスマスシーズン・ゆっくりとした曲・3分」等といったリクエストにより楽曲を複数生成し、それらの曲に共通する音楽的要素を分析してみるといった使い方が可能です。
- 楽譜や歌詞の作成: 生成AIを活用すると、指定したテーマや雰囲気に基づいて歌詞を作成することができます。たとえば校歌や応援歌の作成など、特定のテーマに応じた歌詞の制作に活用できます。
学習活動への応用
生徒の学習活動においても、生成AIを以下のように活用できます。
- 歌詞のアイデア出し: 生成AIは言語生成が得意なため、テーマや特定の語彙を指定することで、歌詞のアイデアを短時間で多数生成することができます。
- 音楽の歴史や文化の調査: 生成AIを用いることで、たとえばロマン派や古典派などの時代ごとの音楽スタイル、政治的背景、地理的影響などを調べることができます。
- ブレインストーミングツールとしての活用: 生徒が自身の楽曲表現を深めるために、AIを対話相手として活用することが可能です。また合唱や器楽演奏における表現方法の提案を受けることができます。
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注意点
生成AIを活用する際には、以下のリスクを考慮する必要があります。
著作権のリスク
生成AIが出力した楽譜や歌詞には、既存の著作物が含まれる可能性があるため、注意が必要です。特に、生成された楽曲が既存の曲と類似していないかを確認することが求められます。
なお、学校で授業の中で利用する場合には 著作権第35条の規定に基づいて許諾不要の場合もあります。しかし許諾不要となる場合でも、著作権法35条の適用範囲を正しく理解することが重要です。
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情報モラル教育の必要性
生成AIの出力結果をそのまま使用しないよう生徒に指導することが重要です。特にコンクールの応募作品に関しては、AIの出力をそのまま利用しないよう指導する必要があります。
また、AIを用いた楽曲や文章を公表する際には、出典や著作権を明記する習慣を身につけることが求められます。なお、生成AIを利用する場面のみに限らず、引用の出所を明示する習慣を生徒に身に着けさせることは大切ですので、指導の一環として取り入れましょう。
生成AIを安全に活用するためのポイント
生成AIを活用する際には、そのリスクを理解し、慎重に取り扱うことが重要です。
出力された情報の真偽を確認する力を養う
生成AIが提供する情報は必ずしも正確ではないため、出力内容の信頼性を慎重に評価する必要があります。AIが学習したデータによっては偏りが生じる可能性があるため、複数の情報源と照らし合わせながら正確性を確認することが重要です。
また、生成AIが作成した内容をそのまま使用するのではなく、適切に編集・確認を行い、正しい情報として活用することが求められます。
文部科学省のガイドラインを参考にする
文部科学省のガイドラインには、教育現場でのAIの適切な活用方法が示されており、その一環としてチェックリストも提供されています。これを活用することで、AIの利用に伴うリスクを管理し、適切に運用することが可能です。
また、教員自身がガイドラインの内容を十分に理解し、生徒に対して適切に指導することが求められています。
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まとめ
生成AIは音楽科教育においても大きな可能性を持っています。しかし、その利用にはリスクが伴うため、ガイドラインに基づいて適切に活用することが求められます。
著作権や情報モラルの観点を理解しながら、教師も生徒も生成AIを活用していきましょう。
この記事は、Youtube動画「音楽科教育における生成AI活用法:文部科学省の最新ガイドラインを解説」においても解説していますのでご覧ください。
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