音楽の授業や部活動では、楽譜や音源など、著作権のあるものを毎日のように使います。「この楽譜、人数分コピーしてもいいのかな」「歌いやすいように移調しても大丈夫かな」と迷った経験はないでしょうか。
この記事では、楽譜のコピー・編曲・演奏という3つの場面で、音楽の先生が気をつけたいポイントを整理します。出発点は、作曲者や出版社が楽譜をどう使ってほしいと考えているかを知ることです。
楽譜を使うとき音楽の先生がまず確認したいのは、楽譜に書かれた注意書きや、出版社・配信サイトの利用規約です。学校の授業には法律上の例外もありますが、その範囲は限られており、市販の楽譜を人数分コピーすることなどは認められないと考えられます。元中学校音楽科教員・学校著作権ナビゲーターとして大切にしているのは、「使えるかどうか」の前に「作った人がどう考えているか」を知ることです。
▼教員・保護者・児童生徒がやりがちな著作権違反について、以下の記事で紹介しています。



3つの場面で気をつけたいこと【早見表】
| 場面 | まず確認したいこと | 気をつけたいこと |
|---|---|---|
| 楽譜のコピー | 楽譜の注意書き、出版社や配信サイトの利用規約 | 人数分コピーして購入の代わりにしない。授業や部活動でも、人数分の購入が基本 |
| 楽譜の編曲・省略 | 楽譜の注意書き、コンクールの規定 | 作曲者の意図を大きく変えない。コンクールや授業以外では許諾が必要 |
| 演奏 | 入場料や出演料の有無 | 公表された曲を、営利を目的とせず、入場無料・出演者に報酬なしで演奏するなら許諾は不要。それ以外は許諾が必要。録音や配信は別に確認する |
まず確認したいのは楽譜の注意書きと利用規約
楽譜を使う前に、まず手元の楽譜を見てみましょう。表紙や巻末に、コピーについての注意書きが書かれていることがあります。インターネットで購入する楽譜データの場合は、配信サイトの利用規約に印刷できる部数や使える場面が決められていることがあります。
重要なのは、こうした注意書きや規約が、作曲者や出版社の考えを知る手がかりになるということです。楽譜は、作曲者が心を込めて作り、出版社が手間をかけて届けているものです。その思いを知ったうえで使うことが作品を大切にすることにつながるのです。
規約を読んでも判断に迷うときは出版社に問い合わせてみましょう。楽譜のコピーの許諾については、楽譜コピー問題協議会(CARS)も手続きの流れを案内しています。
学校の授業での例外は限られた範囲のもの
著作権は、作品を作った瞬間に生まれる権利です。作品は作った人のものなので、使うとき・増やすとき・変えるときには、作った人の許諾を得るのが原則なのです。
著作権は、作品を作った瞬間に生まれる権利です。作品は作った人のものなので、使うとき・増やすとき・変えるときには、作った人の許諾を得るのが原則なのです。
その例外の一つとして、著作権法第35条(授業での利用を認める規定)があります。次の条件をすべて満たす場合に限って許諾なく使える場面があるとされています。
- 営利を目的としない学校などの教育機関であること
- 授業を担当する先生や、授業を受ける児童生徒が使うこと
- 授業の中であること(教科の授業のほか、学活・特活・委員会活動・行事・部活動も含まれます)
- 授業に必要な範囲であること
- すでに公表されている作品であること
- 著作権者の利益を不当に害さないこと
対象になるのは、コピーする(複製)、インターネットで送る(公衆送信)、受信したものを画面などで見せる(伝達)の3つの行為です。インターネットで送る場合は、学校の設置者が補償金を支払う仕組みになっています。ただし、教室の授業を同時に別の場所で受ける児童生徒に配信する場合などは補償金はかかりません。また、慣行がある場合は、曲名や作詞者・作曲者などの出所を示すことも求められます。
しかし、これはあくまで例外です。作曲者や出版社が「自由に使ってよい」と言っているわけではありません。「学校だから何でもOK」ではないのです。
▼学校での著作物の扱い方については以下の記事をご覧ください



部活動・授業での楽譜のコピーは人数分の購入が基本
結論から言うと、楽譜を1冊だけ買って人数分コピーすることは、授業でも部活動でも認められないと考えられます。
なぜでしょうか。学校での例外には、「著作権者の利益を不当に害さない」という大前提があるからです。1クラス35人なら35冊売れるはずの楽譜が1冊しか売れなくなります。これは、出版社や作曲者の利益を不当に害することにつながります。
部活動も授業に含まれます。しかし、部活動で使う楽譜を人数分コピーすることは、購入の代わりになるため、著作権者の利益を不当に害する可能性が高い例として示されています。部活だから大丈夫、というわけではないのですね。
これは楽譜に限った話ではありません。漢字ドリルや数学の問題集、英語のワークブックも同じです。また、紙でもデジタルでも考え方は変わりません。
では、どうすればよいのでしょうか。
- 楽譜の注意書きや利用規約を確認する
- 生徒の人数分を購入する
- 購入が難しい場合は、出版社などに相談し、許諾を得てコピーする
楽譜に限らず、生徒にコピーして配るものについては一度立ち止まって考えてみましょう。
楽譜を編曲・省略するときは、作曲者の意図を大切に
授業の中でも、まずは作品を尊重することから
法律上は、授業の中で移調などのアレンジが認められる場面もあります。一方で、授業で作品を使うときも、作者や作品への敬意を払い、やむを得ない場合を除いて作品を変えないこと、作者名や作品名を示すことが大切だとされています。
アレンジを考えるときは、まず楽譜の注意書きを確認し、本当に必要かを考えてみましょう。生徒の声域に合わせるなど、必要な範囲にとどめることがポイントです。
また、次の2つの場面は特に注意が必要です。
- アレンジした楽譜で、文化祭・合唱祭など人前で発表する場合:作曲者の創作意図に反する可能性がある編曲は、控えるか、権利者の意向を聞いて同意を得たうえで判断することが望ましいとされています。なお、楽譜どおりに演奏する場合は、後で述べる演奏の条件で考えます。
- 授業用に作った楽譜を授業以外で使う場合:地域の演奏会などで使うと、無断でアレンジしたものとみなされる可能性があります。この場合は許諾が必要です。
コンクールでは規定に従い許諾が必要
教育機関以外の団体が主催するコンクールでは、学校の授業での例外とは別に、大会ごとの規定に従います。規定は年度ごとに見直されることがあるため、参加前には必ず最新の要項を確認しましょう。許諾を取る相手は、作詞者・作曲者や、楽曲の権利を管理する音楽出版社などの権利者です。
NHK全国学校音楽コンクール(Nコン)の場合
Nコンの規定では、次のような変更が「改変」にあたるとされています。
- 小節や音符の省略
- 繰り返しやディビジの省略
- 移調・転調
- 楽器の追加・変更
- 楽譜に指示のない手拍子・足踏みの追加
- 伴奏の小節・音符・繰り返しなどの変更
改変がある場合は、許諾を取り、その書類を添えることが求められています。
全日本吹奏楽連盟の課題曲の場合
全日本吹奏楽連盟の課題曲についても、改変の扱いが具体的に定められています。
- スコアに記載されたパート(オプションを除く)がすべてそろっている団体は、いかなる変更も認められない
- パートが不足する場合は、スコアに記載のある楽器での代替が認められる。その際は「作曲者の意図」「作品の書法や個性」を損なわないよう配慮する
- 指定された楽器がない場合の代替方法(トランペット・ホルン・ユーフォニアムなど)が示されている
- 「Solo」や「1 player」の扱いが示されている
このように、規定の中で改変の方法まで具体的に示されているのはとても親切なことです。作曲家や演奏家への配慮が十分になされていると、私は考えています。
文化祭・コンサート・地域のお祭りで演奏するときは
合唱や吹奏楽、邦楽、和太鼓などでは、文化祭などの学校行事のほか、学校の外で演奏する機会もありますね。演奏については、学校の中でも外でも、「営利を目的としない演奏」を認める規定(著作権法第38条)で考えます。次の条件をすべて満たす場合に限って、許諾なく演奏できるとされています。
- すでに公表されている曲であること
- 営利を目的としないこと
- 入場料などを受け取らないこと(名目は問いません)
- 演奏者に報酬を支払わないこと
入場料をとるコンサートや出演料が出る演奏会などは、この条件に当てはまりません。その場合は原則に則って許諾を得る必要があります。曲によってはJASRACなどの管理団体が窓口になります。
また、この条件が当てはまるのは演奏そのものです。演奏を録音・録画したり、配信したりする場合は、別に確認が必要です。
大切なのは、これもあくまで例外だということです。「無料だから大丈夫」と思い込まず、条件を一つずつ確かめましょう。
▼学校の儀式的行事の際に気をつけたい著作権を整理

まとめ:今日から・自分から・できることから
音楽科の授業では著作物を使わない日はほとんどありません。だからこそ次の3つを心にとめておきたいですね。
- 楽譜を使う前に、注意書きや利用規約で作曲者・出版社の考えを確かめる
- 楽譜は人数分購入する。アレンジは作曲者の意図を大切にし、コンクールでは規定に従って許諾を
- 演奏するときは、入場料や出演料の有無を確認する
「学校だから何でも大丈夫」ではありません。しかし、いたずらに恐れる必要もないのです。作品を作った人の思いを知り尊重しながら使うことが、子どもたちに音楽の価値を伝えることにもつながるのではないでしょうか。私は研修で、いつも「今日から・自分から・できることから」とお話ししています。明日の授業から一つずつ取り組んでみてください。
よくある質問(FAQ)
Q.部活動で使う楽譜を人数分コピーしてもいいですか?
A.部活動も授業に含まれますが、楽譜を人数分コピーすることは購入の代わりになるため認められないと考えられます。人数分を購入するか、出版社などに相談して許諾を得ましょう。
Q.購入した楽譜データを生徒に配ってもいいですか?
A.1部だけ購入したデータを全員に配ることは、紙の楽譜と同じく購入の代わりになると考えられます。まずは配信サイトの利用規約を確認しましょう。印刷できる部数や使える場面が決められていることがあります。判断に迷うときは、配信サイトや出版社に問い合わせると安心です。
Q.授業で生徒の声域に合わせて移調してもいいですか?
A.法律上は、授業の中でアレンジが認められる場面もあります。ただし、作品への敬意から、やむを得ない場合を除いて作品を変えないことが大切だとされています。まずは楽譜の注意書きを確認し、必要な範囲にとどめましょう。
Q.学校外の無料コンサートなら許可はいりませんか?
A.公表された曲を、営利を目的とせず、入場無料・演奏者に報酬なしで演奏する場合は、許諾なく演奏できるとされています。ただし、録音・録画や配信をする場合は別に確認が必要です。
合唱指導について、初任時代の自分に教えてあげたかったことを1冊にまとめました。『歌いたくない生徒を歌いたくさせる 中学校音楽教師のための合唱指導』(明治図書)、詳しくは書籍の紹介ページをご覧ください。








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