音楽の授業でピアノの弾き語りをする場面は多く、生徒の様子を見ながら正しい声量で歌うことを同時にこなすのは簡単ではありません。声楽専攻の教員であっても、弾き語りに苦手意識を持つことは珍しくないのです。
音楽科の教員だからピアノが弾けて当たり前、完璧に弾けない自分はダメだ——そんな思い込みに苦しんでいる先生も少なくないのではないでしょうか。この記事では、弾き語りが苦手な先生がすぐに実践できる3つの視点と具体的な方法を、共通教材の実例とあわせて紹介します。
授業で一番大切なのは、教員が上手にピアノを弾くことではなく、子どもたちが安心して歌える環境をつくることです。伴奏が完璧でなくても、明確なブレスと笑顔で子どもたちと向き合う教員の方が、生徒にとっては圧倒的に歌いやすいと考えられます。学校の授業は演奏の発表会ではなく、子どもたちが伸び伸びと歌えることが何よりも大切だからです。
▶ 動画では0:36〜で詳しく解説しています
まずは「完璧」から自分を解き放つ
弾き語りが苦手になる原因の多くは、色々なことを同時に完璧にこなそうとすることにあります。楽譜通りに両手で伴奏する必要はありません。授業の目的を達成させるために必要な要素——正しい音程や言葉のニュアンス——が伝われば十分と考えられます。
重要なのは、完璧な演奏を目指すのではなく、子どもの学びを成立させるための「引き算」の視点を持つことです。どこを簡略化できるかをまず考えてみると、頭と体の負担が軽くなり、その分を言葉をはっきり発音して歌うことや、子どもを観察することに使えるようになります。上手なピアノよりも、子どもたちとのアイコンタクトの方がはるかに大切だと考えられます。
▶ 動画では2:25〜で詳しく解説しています
今日から使える3つの具体的な方法
引き算の視点を、実際の授業ですぐに使える形に落とし込むと、次の3つの方法が挙げられます。
右手を弾くのをやめる
両手で無理に弾こうとすると自滅してしまいがちです。思い切って右手は弾かない、あるいは主旋律だけをたどるというルールを作ってみましょう。右手は指揮をしたり、教科書や楽譜を指し示したりするために空けておき、左手だけでコードの根音や全音符を鳴らすだけにします。こうすることで、範唱や子どもの観察に意識を向ける余裕が生まれます。
デジタル教科書と二刀流にする
最初から最後まですべてを自分の生演奏で賄う必要はありません。授業の場面や目的に合わせて、デジタル教科書の伴奏音源や範唱の音源を使い分けることが考えられます。新しく曲を覚える導入や音取りのフェーズでは音源をフルに活用し、教員はピアノから離れて子どもたちの近くで一緒に歌ったり、個別に声をかけたりすることに専念できます。
曲が仕上がってきた合わせのフェーズでは、自分が絶対に間違えない得意なフレーズ(曲の最初と最後、サビ、間奏など)だけを弾き、残りは音源に任せる方法も有効です。
前奏や間奏をカットする
教科書や指導書の伴奏譜は、前奏や間奏が凝っているものも少なくありません。自分の技術に応じて、前奏は最初の主和音を一拍だけ鳴らすだけにしたり、簡易伴奏にしたりする工夫が考えられます。歌の最後のメロディを右手だけで単音で弾く、間奏はコードを鳴らしてフェルマータで待つなど、演奏をシンプルにアレンジする方法はいくつもあります。
▶ 動画では3:59〜で詳しく解説しています
共通教材3曲でみる具体的な工夫
中学校の歌唱には、学習指導要領で示された共通教材(「赤とんぼ」「荒城の月」「早春賦」「夏の思い出」「花」「花の街」「浜辺の歌」の7曲)があり、各学年で1曲以上を扱うことが求められています。教員が完璧に伴奏を弾くことが目的ではないという前提のもと、代表的な3曲について具体的な工夫を紹介します。
| 曲名 | 工夫のポイント |
|---|---|
| 赤とんぼ(三木露風作詞・山田耕筰作曲) | 左手で1拍目に根音を鳴らすだけにし、右手は弾かずに開いた手で3拍子の指揮を振る。テンポを感じやすくなり、歌いやすくなる |
| 夏の思い出(江間章子作詞・中田喜直作曲) | 伴奏に必死にならず、3連符やフェルマータなどのポイントを視覚(指揮の動きなど)で示すことに意識を向ける |
| 花(武島羽衣作詞・滝廉太郎作曲) | 前奏の動きが難しければ思い切ってカットし、明確なブレスから歌に入る。事前に自分の歌とピアノを録音しておき、授業中はお手本の音源を再生する方法も有効 |
事前に録音したお手本を授業で再生すれば、授業中は生徒の表情を見ることに集中でき、自分の演奏の振り返りにもつながると考えられます。すべてをその場で同時にやろうとしないことが、授業を成功させるコツといえるでしょう。
▶ 動画では6:52〜で詳しく解説しています
▼歌唱・合唱の指導についての記事まとめはこちら

この記事が答えること(FAQ)
Q. ピアノの弾き語りが苦手でも音楽の授業はできますか?
A. 完璧な演奏を目指すのではなく、子どもが安心して歌える環境をつくることを優先すれば、伴奏が簡素でも授業は十分に成立すると考えられます。
Q. 共通教材の伴奏を簡単にするにはどうすればいいですか?
A. 右手を弾かずに指揮や範唱に使う、前奏・間奏をカットするなど、曲ごとに「引き算」できる箇所を探すことがポイントです。
Q. デジタル教科書の音源を授業で使ってもいいのでしょうか?
A. 導入や音取りの場面で伴奏音源・範唱音源を活用し、自分の生演奏と使い分ける方法が紹介されています。ご自身の学校で使用している教材の利用条件は、契約内容や出版社の案内をあわせてご確認ください。
Q. 弾き語りが苦手なのは自分だけでしょうか?
A. 声楽専攻の教員でも弾き語りに苦手意識を持つことがあり、特に初任の先生が同様の悩みを抱えやすいと考えられます。
合唱指導について、初任時代の自分に教えてあげたかったことを1冊にまとめました。『歌いたくない生徒を歌いたくさせる 中学校音楽教師のための合唱指導』(明治図書)、詳しくは書籍の紹介ページをご覧ください。
この記事は、動画「ピアノ弾き語りが苦手な音楽の先生へ|3つの工夫」をもとに作成しました。





