声楽が専門でもなく、合唱部に所属した経験もないのに合唱部の顧問を任されてしまった。そんな状況で「どうすればいいのだろう」と悩んでいる先生は多いのではないでしょうか。
この記事では、専門外の先生が歌えなくても充実した合唱部運営を行うための3つの考え方を紹介します。授業と部活の違い、お手本の示し方、生徒に任せる部分のつくり方がわかります。
専門外の先生が合唱部を運営するうえで大切なのは、教員自身が歌のお手本になることではなく、生徒が安心して歌い仲間と音楽を深められる環境をつくることです。具体的には「授業と部活の目的の違いを割り切る」「お手本を歌わない勇気を持つ」「音取りや日々の発声は生徒の自治に任せる」の3つが柱になります。声楽専攻のように歌えないからといって引け目を感じる必要はまったくありません。
歌えない先生でも合唱部の顧問は務まる?
結論から言えば十分に務まります。声楽専攻でないからといって落ち込む必要はまったくないのです。
私自身は声楽専攻で、中学・高校ともにNコン(NHK全国学校音楽コンクール)にバリバリ出場するような合唱部に所属していました。元中学校音楽科教員として附属学校ではNコンに出場する団体を組んで指導したこともあります。社会人合唱団では、全国大会で4連覇するような団体に、指導者ではなく一部員のソプラノとして参加していました。
そうした経験から実感しているのは、「歌えるかどうか」と「充実した部活運営ができるかどうか」は別の話だということです。ここからは、歌えなくてもできる部活運営術を3つ紹介します。
運営術①:授業と部活の目的の違いを割り切る
1つ目は、授業の合唱と部活動の合唱は目的が違う、と割り切ることです。ポイントは、授業のように「全員を引っ張らなければ」と気負わなくてよい、という点にあります。
| 授業の合唱 | 部活動の合唱 | |
|---|---|---|
| 位置づけ | 学習指導要領に基づく全員参加の場 | 歌いたい生徒が集まる探究の場 |
| 参加する生徒 | 歌が苦手な生徒や変声期の生徒も含む | 歌うこと自体に興味を持つ生徒 |
| 目指すもの | 全体の底上げ | より良い響きの探究 |
| 教員の関わり方 | 全員を均一に引っ張る | 生徒と一緒に面白がる伴走者 |
授業の合唱は「全員の底上げ」を目指す場
合唱の授業は、学習指導要領に基づいて表現の楽しさや協働を体験する全員参加の場です。歌が苦手な生徒や変声期の生徒も含め、全体の底上げを目指しています。そのため授業では、教員が全員を均一に引っ張っていく必要があるのですね。
授業での合唱指導の基本的な手順は、動画「合唱指導の基礎・基礎3つのコツ【準備・手順・指揮者の立て方】」で解説しています。

部活動は「歌いたい生徒」が集まる探究の場
一方で部活動は、歌いたい生徒が集まる探究の場所です。うまく歌いたい、みんなで歌いたい、みんなの前で歌いたい。部員たちは、そうした気持ちをすでに持っている子どもたちなのです。
だからこそ授業のように全員を引っ張る気負いは手放して大丈夫です。より良い響きを生徒と一緒に面白がる。そんなスタンスで向き合うだけでも気持ちはずいぶん楽になるでしょう。
正解を教えるより「伴走者」になる
授業と部活を切り離して考えると指導のアプローチも変わってきます。部活では、高度な音楽性を教え込もうと身構える必要はありません。
大切なのは、生徒が目指したい音や表現に寄り添い一緒に探究する姿勢です。教員が正解を教える場面があってもよいのですが、それだけでなく、音楽の良さを全員で共有する「伴走者」になるという方法もあります。
声楽専攻や合唱経験が豊富な先生であれば、さまざまな指導方法を提案したり、レッスン型で教え込んだりすることもできるでしょう。しかし、そこまで自信がない場合は「子どもたちと一緒につくり出す」という考え方を持ってみてください。
▶ 動画では1:36〜で詳しく解説しています
運営術②:お手本を歌わない勇気を持つ
2つ目は、お手本を歌わない勇気を持つことです。声楽専攻ではない先生が一番恐れるのは、「お手本を歌って聞かせてください」と言われる場面かもしれません。しかし、教員自身がお手本を歌って聞かせる必要は一切ありません。無理に歌おうとしなくても十分にいい指導ができるのです。
歌唱のモデルはプロの音源や演奏動画に任せる
歌唱のモデルとしては、プロの演奏音源や他校の演奏動画を活用してみてはいかがでしょうか。今は質の高い演奏動画がたくさんあります。
生徒に理想的な発声や響きを聞かせたいときは、外部の優れた音源に委ねてしまえばよいのです。教員がお手本にならなくても、子どもは優れたモデルから自然と学んでいきます。そして、「この動画が優れている」「こんな情報がある」と見つけ出してくることも教員の大切な仕事です。
顧問は指揮台ではなく「客席の耳」になる
では、顧問の役割は何なのでしょうか。答えは、指揮台ではなく「客席の耳」になることです。
客席の位置から演奏を聞くと音楽の基本構造を客観的にチェックできます。たとえば、次のような点です。
- ハーモニーの濁り
- リズムの縦のずれ
- 言葉の立ち上がり
歌わないからこそ客観的な耳を持つことができるのです。
気づきを伝えるフィードバック役に徹する
客席から聞いた感想や気づきを伝えることは、どの専攻の先生でもできます。声楽専攻でなくても、さまざまな楽器を経験していればそうした耳はきちんと育っているはずです。
重要なのは、感じたことをそのまま生徒に伝えるフィードバック役に徹することです。濁っている部分やずれている箇所を指摘し、どう改善するかを子どもと一緒に考えましょう。演奏者ではなく「一番近くにいる聞き手」として関わることで、演奏の精度は確実に上がっていきます。
▶ 動画では3:51〜で詳しく解説しています
▼合唱部顧問の先生として知っておきたい著作権の知識


運営術③:音取りや日々の発声は生徒の自治に任せる
3つ目は、音取りや日々の発声を生徒の自治に任せることです。授業では先生主導の丁寧な指導が求められますが、部活動は生徒の主体性を育てる絶好の場所です。教員がすべてを抱え込まず、練習の一部を生徒に委ねてみましょう。
| 生徒に任せること | 顧問が担うこと |
|---|---|
| パート練習 | 練習場所の確保 |
| 日々のルーティーンの発声 | 安全管理・活動時間の調整 |
| 音の確認・声合わせ | 楽譜の構成や楽曲分析(アナリーゼ)の助言 |
| 人間関係のケア |
パート練習や発声は上級生・パートリーダーへ
具体的には、パート練習や日々のルーティーンの発声を上級生やパートリーダーに指導させてみてはいかがでしょうか。生徒同士で音を確認し合い声を合わせる経験は、チームワークや自主性を育てるきっかけになります。
教員がピアノに張り付いて音取りをする必要はありません。生徒に任せて見守る姿勢が大切なのです。
顧問はマネジメントと交通整理に集中する
練習を生徒に任せると、顧問はマネジメントや交通整理に集中できます。練習場所の確保や安全管理、活動時間の調整など、環境を整えることに力を注ぎましょう。
また、楽譜全体の構成や楽曲の分析といったアナリーゼの助言であれば、ピアノや声楽が専門でない先生でも十分に関わることができます。日々の反復練習を子どもに委ねることで教員自身の指導の負担も大きく減らせます。教員に余裕が生まれれば部活動全体を温かく見守る安心感にもつながるでしょう。生徒が自分たちの力で曲を仕上げていく達成感を味わえることも大きなメリットです。
人間関係のもつれをほぐすのは顧問にしかできない
そして、教員にしかできない大変重要な役割があります。それは、人間関係を円滑にすることです。
合唱部などでは人間関係のいざこざが起こりがちです。学級担任や教科担任に話を聞いたり、その生徒の話にきちんと耳を傾けたりして、糸のもつれをほぐしてあげる。こうした関わりは顧問だからこそできることなのです。ぜひ、ここに力を注いでみてください。
担任の先生との連携の考え方は、動画「【音楽科の悩み解決】合唱コンクール、担任との連携どうしてる?プロが教える関わり方の3つのコツ」も参考にしてください。

▶ 動画では6:13〜で詳しく解説しています
まとめ:専門外の合唱部顧問が大切にしたいこと
専門外で合唱部を任されたときのポイントは次の3つでした。
- 授業と部活の目的の違いを割り切る
- お手本を歌わない勇気を持つ
- 音取りや日々の発声は生徒の自治に任せる
専門外であっても、視点を変えるだけで合唱部の指導はぐっとやりやすくなります。合唱部の顧問として大切なのは素晴らしい歌声のお手本を見せることだけではありません。生徒たちが安心して歌い、仲間と音楽を深められる環境をつくることなのです。
教員ならではの客観的な視点やサポートは生徒たちの大きな力になります。合唱の響きを子どもたちと一緒に楽しみながら、無理のないペースで部活運営を進めてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 歌えない先生でも合唱部の顧問は務まりますか?
A. 十分に務まります。お手本はプロの演奏音源や他校の演奏動画に任せ、顧問は客席の位置から聞いた気づきを伝えるフィードバック役に徹しましょう。一番近くにいる聞き手として関わることで演奏の精度は上がっていきます。
Q. 生徒に「お手本を歌って」と頼まれたらどうすればいいですか?
A. 無理に歌う必要はありません。質の高い演奏動画や音源を探して示すことも顧問の大切な仕事です。教員がお手本にならなくても生徒は優れたモデルから自然と学んでいきます。
Q. 顧問が音取りをしなくても部活は成り立ちますか?
A. パート練習や日々の発声は上級生やパートリーダーに任せる方法があります。生徒同士で音を確かめ合う経験はチームワークや自主性を育てるきっかけにもなります。
Q. 専門外の顧問は練習以外に何をすればいいですか?
A. 練習場所の確保や安全管理、活動時間の調整といった環境づくりが中心です。あわせて、人間関係のもつれに気を配り、担任とも連携しながら生徒の話を聞くことも、顧問にしかできない大切な役割です。
合唱指導について、初任時代の自分に教えてあげたかったことを1冊にまとめました。『歌いたくない生徒を歌いたくさせる 中学校音楽教師のための合唱指導』(明治図書)、詳しくは書籍の紹介ページをご覧ください。
この記事は、動画「専門外で合唱部を任された先生へ|歌えなくてもできる部活運営術」をもとに作成しました。





