学校現場では、生徒から「先生っていくつ?」「結婚してるの?」といった、プライベートに関する質問を投げかけられることが日常的にあります。これらは、大人の社会ではハラスメントと受け取られかねない質問ですが、生徒本人に悪気がないケースも少なくありません。
この記事では、私の経験をもとに、生徒からのこうした無邪気ながらも答えにくい質問、いわば「子供からのハラスメント」をどう捉え、生徒との関係を壊さずに対処する具体的な方法を解説します。
この記事は、
- 生徒からのちょっと笑えるハラスメントの事例を知りたい方
- ハラスメント的な発言の裏にある生徒の本当の意図を理解したい方
- 具体的な返し方や対策を学びたい教員や教員志望の学生の方
にご覧いただきたい内容です。
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この記事は授業以外の休み時間等での子どもとのやり取りを想定していますが、「【音楽の先生へ】授業での「怖い」が「大歓迎」に変わる!子どもの予想外の反応との向き合い方」は授業の中での予想外発言の原因と対策について話しています。
ハラスメントへの返しには子どもとの関係作りが大切です。関係を作るための餌まきである、教員のキャラづくりについて色や持ち物の話をしています。
多様化するハラスメントと「逆」の視点
昨今、ハラスメントに対する社会的な意識は高まりを見せています。実際に、アルコールハラスメント、パワーハラスメント、セクシャルハラスメントといった馴染みのあるものから、テクノロジーハラスメント、カラオケハラスメント、さらには家事ハラスメントまで、様々な種類が認識されるようになりました。
教育現場においては、教員から生徒への「スクールハラスメント」が問題視されることがありますが、今回のテーマはその「逆」、つまり生徒から教員へのハラスメントです。これは職員室内の大人同士の問題とは異なり、生徒からの無邪気な言動が発端となる点が特徴です。
「あるある」ハラスメント①:年齢・結婚に関する質問と返し方
学校で最も頻繁に遭遇するのが、「あるある」のハラスメント、通称「アルハラ」です。
- 先生いくつですか?
- 結婚していますか?
- 子供はいますか?
これらは、教員であれば誰もが一度は経験する質問でしょう。あまりに当たり前すぎて感覚が麻痺しがちですが、よく考えると大人の社会では空気が凍りつくような内容です。多くの先生方は、経験から独自の返し方を持っています。
ユーモアを交えた返し方の実践例
例えば、「先生いくつですか?」という質問には、
- 「23です」(少し間を置いてから)「靴のサイズです」
- 「153」(身長ですよね、というニュアンスで)
- 「酉年です」
といった返し方を私はしてきました。
また、「結婚していますか?」には、
- 「ギリ、できてます」
- 「妄想の世界で●●君としています」
などと返す例もあります。
「子供はいますか?」という問いには、
- 「480人です」(全校生徒の数を言う)
というように、ユーモアで切り返す先生もいます。
関係づくりを優先する教育的配慮
もちろん、これらは模範的な回答ではありません。「人に年齢を聞くのは失礼だ」「結婚について聞くのはハラスメントにあたる」と初めから真面目に説諭することもできますが、特に中学生などの思春期の生徒相手にそれをすると、その後の関係がうまくいかなくなる可能性があります。
教育の土台は、まず人間同士の関係づくりです。あらゆる教育は、その関係性の上に成り立ちます。
もし私自身は年齢を聞かれることを全く気にしないので、正直に答えた上で、「私は気にしないけれど、大人の中にはこういう質問をされると嫌な気持ちになる人もいるから、相手への配慮も大切だよ」と付け加えることで、生徒に社会性を育む機会を与えられます。
この時、「女の先生に年齢は聞いてはいけません」といった限定的な言い方をすると、新たなハラスメントを生む可能性があるので配慮が必要です。
もし質問されて嫌な思いをした場合は、「それは嫌だな」「答えたくないな」と正直に伝えた上で、「なぜなら…」と理由を続けることが、生徒自身の学びを深めるきっかけになるでしょう。
「意図とすかし」が鍵のハラスメント②:答えに窮する質問
時には、「先生は巨乳派ですか、貧乳派ですか?」といった、より直接的で答えに窮する質問をされることもあります。このような質問にどう対応すればよいのでしょうか。
質問の真意は「反応」を見たいだけ
まず考えるべきは、質問の「意図」です。この種の質問をする生徒は、本当にAかBかの答えを知りたいわけではありません。彼らが見たいのは、質問された教員の「反応」です。
- もし教員が顔を赤らめたら… 生徒は「耳が赤くなってる!」「わ、想像してる!」と冷やかすでしょう。
- もし教員が答えや理由を言ったら… 「エロい!」「じゃあ●●っていうアイドルが好きですね」などと、はやし立てたり茶化したりするでしょう。
- もし教員が怒ったら… 「なんでそんなこと聞くの?」「答えません」と返せば、生徒はシラーっとした目で見てくるだけ。「担任に報告します」とまで言えば、「めんど」と思われて、その生徒との信頼関係は終わり、二度と話しかけてくれなくなるかもしれません。
関係を壊さない「すかし」のテクニック
最後の方法が正論かもしれませんが、生徒との関係を壊してしまいます。
そこで重要になるのが、相手の意表を突く「すかし」の技術です。生徒の予想を鮮やかに裏切る「すかした返し」は、質問の意図を無力化し、笑いに変えることで、信頼関係を壊すどころか、むしろ深めるきっかけにもなり得ます。
このスキルは、教員採用試験では問われませんが、現場では非常に大切な能力と言えるかもしれません。
実践編:ユーモアで切り返す「お笑い筋」の鍛え方
では、具体的にどのように「すかし」たら良いのでしょうか。
笑いを誘う秀逸な回答例
前述の「巨乳派か貧乳派か」という質問に対し、私はこう返しました。
「巨乳派です。牛の乳は大きい方がいい」
これを聞いた生徒は笑って、それで話は終わり。そして、その生徒とはとても仲良くなりました。
年齢や結婚に関する質問では、生徒は「回答」と「反応」の両方を求めていますが、この種の質問で生徒が望んでいるのは「反応」のみです。
質問の意図を一瞬で汲み取り、反射的に気の利いた返しをするのは、お笑い芸人さんが持つ「お笑い筋」のようなもので、一朝一夕に身につくものではありません。
反射神経を磨くには?
お笑い芸人の方々は、反射的に言葉を出すための訓練を積んでいます。例えば、お笑いコンビの千鳥さんが、若手の頃に笑い飯のお二人と一晩中ボケとツッコミを繰り返していたという話があります。そうした訓練が、天才的な返しを生み出すのです。
私たち教員も、お笑い芸人のように日頃から訓練を積むのは難しいですが、よくある質問や、生徒の心を掴みたい場面を想定し、自分なりの「返し」の引き出しを準備しておくことはできます。
また、経験豊富なベテランの先生方は、「あるある」ハラスメントに対する秀逸な返しを一つや二つ持っているものです。聞いてみるのも面白いかもしれません。
まとめ:質問の意図を汲み取り、学びにつなげる
生徒からのハラスメントとも言える質問について考えてきました。
生徒たちが年齢や結婚について尋ねるのは、多くの場合、純粋に先生のことをもっと知りたいという気持ちの表れです。少しきわどい質問でさえ、教員の人間性を見たいという意図が隠れているだけかもしれません。
もちろん、校種や発達段階によって対応は異なります。
小学校低学年の生徒が親しみを込めて抱きついてくるのと、私が知っている中学校種で同じことをするのとでは意味合いが違います。生徒自身も、他人とどう関わるか、相手がどう思うかを、集団生活の中から学んでいきます。そのための学校なのです。
何年生から手をつなぐのはダメなのか、保護者には良いけど教員にはダメなのはなぜか。そういった線引きを理解することも、子供たちにとっては大切な学びです。
最も重要なのは、生徒の言葉の裏にある「何を知りたいのか」「何を感じたいのか」という意図に、一度立ち止まって思いを馳せることです。その上でユーモアや誠実さをもって応じる一瞬のやり取りこそが、揺るぎない信頼関係を築き、生徒の豊かな成長を支える土台となるのです。
この記事は動画「「先生、いくつ?」生徒からの答えにくい質問への神対応3選【教師向け】」をもとに作成しました。
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