「授業で子どもの反応を予想していたのに、全く違う反応が返ってきた…」
「学習指導案に書いた以外の反応が出てきたら、どうしよう…」
音楽の授業、特に教育実習では、子どもたちの予想外の反応に戸惑い、冷や汗をかく場面は少なくありません。真面目に準備をしてきたからこそ、想定外の事態に「授業が止まってしまったらどうしよう」「失敗だと思われたくない」と焦りや不安を感じてしまうこともあるでしょう。
しかし、その「予想外の反応」は、決して失敗ではありません。むしろ、授業をより豊かにし、教員として成長するための貴重な機会となり得ます。
この記事では、授業における子どもの予想外の反応とどう向き合えばよいか、3つのポイントに分けて解説します。
この記事は、次のようなことを知りたい方に是非ご覧頂きたい内容です。
- 予想外の反応の前にできる準備を知りたい方
- 実際の授業で予想外の反応が来たときの対処法を知りたい方
- 予想外の反応を楽しめるようになりたい方
この動画の他には、
学習指導案のフォーマットを使って、1から学習指導案を解説しながら書くという動画をアップしています。
併せてご覧ください。
ポイント1:そもそも「予想外」を防ぐには?精度の高い「予想」の重要性
予想外の反応を防ぐために最も重要なのは、より精度の高い「予想」をすることです。
教育実習生は学習指導案を作成する際、予想される子どもの反応を3つから5つほど記入しますが、私は自分が受け持った実習生に「100個考えておきましょう」と話していました。
その理由と共に、予想の精度を高める方法を紹介します。
なぜベテラン教員は予想の精度が高いのか
子どもたちと年齢の近い教育実習生の方が、反応の予想が当たりそうに思えるかもしれません。しかし実際には、経験を積んだベテラン教員の方が精度は高いです。
その理由は、多くの「データ」を持っているからに他なりません。
ベテラン教員は、例えば「中学校1年生」という発達段階において、子どもたちがどの程度の知識を持ち、どのような生活をしているかを知っています。1クラス35人なら35例、それを毎年クラスの数だけ更新していくことになります。AIの会話が良い例ですが、精度を高めるには多くのデータが一番なのです。
さらに、クラス全体や子ども一人ひとりのパーソナリティーも加味されるため、「あの子ならこう言うだろう」「このクラスならこういう流れになるだろう」といった、より具体的な予想が可能になります。
また、音楽科の場合は毎年同じ教材や内容で授業を行うことも多くあります。
共通の歌唱教材や合唱、和太鼓など、内容は人によって異なりますが、毎年取り組むことで「去年はこんな風だったから、今年はこうしよう」という予想の幅が広がります。同時に、「予想していたこれは去年出なかったから、今年も出ないだろう」という取捨選択の精度も上がっていくのです。
教育実習生が予想の精度を高めるためにできること
経験豊富な教員に太刀打ちするのは難しいですが、教育実習生が予想の精度を高めるためにできることもあります。
それは、とにかく予想の「数」を圧倒的に増やすことです。
「予想される反応を100個考えておきましょう」という言葉の真意は、100個のリストを完璧に作ることだけが目的ではありません。むしろ、「これだけ考えたのだから大丈夫」という自信を育て、万が一「101個目」の反応が出てきた時にも動じないための、心の土台を作ることにあるのです。
また、授業外で児童生徒と関わる機会を学級や放課後に持ち、彼らがどのような語彙を持っているのか、どのような思考の仕方をしているのかをよく観察することも、予想の精度を高める上で非常に重要です。
ポイント2:それでも起こる「予想外」!具体的な3つのパターン別対処法
どれだけ準備をしても、「101個目」の反応は出てくるものです。
しかし、準備段階で5個しか考えていなかった時の「6個目」と、100個考えた上での「101個目」とでは、気持ちの余裕が全く違います。練習や努力が緊張の緩和やパフォーマンスの向上に繋がることは、音楽に携わる方なら納得できるはずです。
ここでは、よくある予想外の反応を3つのパターンに分類し、それぞれの対処法を解説します。
パターン1:教員が分からない・答えられない場合
子どもから「これこれはこうなんですか?」という質問が出た際に、教員が答えられないケースです。
このような時は、まず素直に「分からない」と伝えましょう。 うやむやにするのが一番よくありません。子どもは覚えているもので、次の時間に「あれはどうでしたか?」と聞かれて答えられなければ、信頼を失ってしまいます。
「分からない」と伝えた後には、いくつかの選択肢があります。
- 「調べて次回教えます」と約束する
必ず調べて、個人か全体に伝えましょう。 - 「誰か知っていますか?」と問いかける
中学生くらいになると、分野によっては生徒の方が詳しいこともあります。音楽の習い事をしている生徒や、音楽系の部活動の生徒に聞いてみるのも良いでしょう。 - 「一緒に調べてみましょう」と提案する
今はGIGA端末があれば、教科書外のことも調べられます。面白い流れを作れる可能性はありますが、学習指導案から脱線したり、時間がかかったりするリスクも考慮する必要があります。
パターン2:意見が出すぎてまとまらない場合
指導者として意図する方向性はあり、その方向性に沿った意見も出ているのに、他の視点の意見が大量に出てきたり、正反対の意見が同時に存在したりして、まとまりがつかなくなるパターンです。
例えば、歌唱曲の歌い終わりをクレシェンドにするか、デクレシェンドにするか。教員としてはクレシェンドにしたいけれど、様々な良い意見が出てきてしまった、というような状況です。
このようにまとまりがつかなくなった場合は、両方演奏してみるのが一つの手です。
その上で再度考えたり、指揮者に考えさせたり、「この時間はクレシェンドにしてみよう」と教員の意見を伝え、後日改めて考えさせたりといった工夫ができます。
意見が出すぎるのは大変喜ばしいことですが、舵取りが大切です。いたずらに多数決にしたり、声の大きな子どもの意見に流されたりしすぎないように気をつけましょう。
パターン3:意見が全く出てこない場合
「意見がある人、どう思いますか?」という問いかけに対して、教室が「シーン…」となる、教育実習生にとっては焦りが募る場面です。
このような時は、まず発達段階を考えてみましょう。
小学校であれば、それでも意見が出てこないのは大変なことかもしれません。
しかし、中学校・高校という発達段階では、意見は頭に浮かんでいても、挙手するのが恥ずかしかったり、面倒だったり、ワークシートに書けばいいと考えていたりと、様々な理由が考えられます。
次に、学級の状況も考慮すべきです。
誰かが発言すると「何なの!?」「いい子ぶってる!」といった空気が流れるクラスでは、そこは心理的に安全な場所ではありません。年度初めや長期休み明け、行事前の合唱で揉めているといった場合に、よく見られる空気です。
教員がその空気をきちんと察知し、規則的な指名や必然性のある指名に切り替える必要があります。
その上で、具体的な対処法として、まずは発問に問題があるかを考えましょう。
特に、普段よく発言するクラスで意見が出ない場合、その原因はほぼ100%、教員側の発問にあると考えましょう。。子どもからすると、何を聞かれているのか、何を答えていいか分からない状態なのです。
そこで、スモールステップを考えます。
答えにくい原因の多くは発問の難しさにあるため、質問の形式を変更したり、具体的にしたりして、答えやすくします。
例えば、合唱でサビの強弱を考える場面。「サビの強弱をどのように歌えばいいですか?」と聞いても意見が出なかったとします。
- 質問の形式を変える(クローズドクエスチョンや選択式に)
「サビを強くしたいですか?弱くしたいですか?」のように、「はい」「いいえ」や選択肢で答えられるようにします。これに答えることができたら、「それはなぜですか?」と踏み込んだ質問につなげられます。 - 具体的にする(数字を使うなど)
「歌い出しの強弱を10段階で3、展開部を5だとすると、サビはいくつがいいですか?」のように、数字で答えられるようにします。これに答えることができたら、「それはなぜですか?」「そうするためにはどうすればいいですか?」と、さらに質問をつなげていくことができます。
今回紹介した3つのパターンも、あらかじめ「よくあるパターン」として予想できれば、それはもう「予想内」の出来事になります。
ポイント3:「怖い」から「大歓迎」へ!経験が変える予想外の反応への向き合い方
教員として3年目を終え、3学年を一周した頃には、「予想外の反応、大歓迎!」という気持ちになってきます。経験を重ねて予想の精度が上がり、授業が順序通りに進むのは快適ですが、刺激が少ないと感じることもあるでしょう。
そんな時、「そうきたか!」「一本取られた!」というような反応があると、嬉しいものです。
例えば、長調と短調の説明の際に「短調が明るい」という意見が出た時。私は、「明るい短調をつまみに作曲専攻の同級生と話したい」という衝動にかられ、そして「この問いをどのような授業にできるかな?」と考え始めました。
- 映画で、残虐なシーンなのに美しい曲が流れる演出があったな…
- 暗い長調ってあるのかな…
- 旋律は長調だけど歌詞が悲しい曲ってあるのかな…
このように、予想外の反応をきっかけに、自分の「考えてみたい・調べてみたい」という気持ちに火がつき、授業の種がたくさん生まれます。そして、それが次の年の授業につながっていくのです。
同じ教材でも、世の中や子どもたちはどんどん変わっていきます。まったく同じ内容にはせず、「来年はこうしよう」と考えることが大切です。
まとめ:予想外があるからこそ、人間が教える意味がある
今回は、子どもの予想外の反応について3つのポイントをお話しました。
予想外の反応があるからこそ、音楽科教員は必要です。
もしすべてが想定内なら、YouTubeに授業動画を1本作って「あなたなこう思いましたよね。こう考えられます」と断定して進めることができますが、それは実につまらない授業でしょう。人間だから予想外があり、人間だからそれに答えられる。そして、子どもだからこそ出る予想外があるのです。
教育実習生の皆さんは、授業をすること、そして子どもたちの前に立つこと自体に、怖い、危険を回避したい、失敗をしたくないという気持ちがあると思います。真面目に努力してきた学生ほどそう思うでしょうし、それは「正しい怖がり方」です。
しかし、反応が予想できなかったことは、マイナスや失敗ではありません。 教育実習の指導教員はベテランばかりですから、予想できなかったことを「ダメだ」と言う人はいないでしょう。
ぜひ、子どもたちを深く「観察」し、万全の「準備」を重ね、それでも起こる予想外の反応を「歓迎」する姿勢で、あなたらしい授業を創造していってください。
この記事は動画「【音楽の先生へ】授業での「怖い」が「大歓迎」に変わる!子どもの予想外の反応との向き合い方」をもとに作成しました。
コメント