音楽は私たちの生活を豊かにし、癒しや感動を与える存在です。
しかし、学校教育の中で「音楽科」という教科として学ぶ必要性は、たびたび議論の対象となります。特に、新学習指導要領で注目されているのは「生活や社会の中の音楽」。この中で音楽科がどのような役割を果たせるのかが問われています。
この記事では、音楽を学ぶことの意義に焦点を当て、「なぜ音楽科が必要なのか?」を5つの視点から掘り下げます。
音楽を趣味や娯楽として楽しむだけでなく、教科としての価値を再認識するきっかけになれば幸いです。
この記事は、次のようなことを知りたい方に是非ご覧頂きたい内容です。
▶新しく求められるスキル(例えばタイピングや金融教育・税制など)よりも音楽科は必要か?と疑問に思う方。
▶中学校に教科として音楽が必要か?と疑問に思う方。
▶生徒に「どうして音楽を学校で学ばなければいけないのか?」と聞かれた時に何て答えたらいいのか悩んでいる先生。
ほかには、
2021年度からの中学校の学習指導要領の解説。「生活・社会と関わる音楽科」「口唱歌」「知的財産権」の3つの要点に絞って解説しました。
合唱指導の際、音楽家の場合は3つの視点ですが音楽科の場合は5つの視点が必要です。何が違うのでしょう?
音楽教育の重要性とは?新学習指導要領と音楽科の位置付け
2020年度から始まった新学習指導要領では、学校教育の新たな方向性が示されています。
注目されているのは、外国語教育やプログラミング、道徳の教科化、高校の新科目「公共」「歴史総合」「情報」など、時代の変化に対応した新しい学びです。
これらの新しい取り組みが増える一方で、音楽科のように削減の危機に直面する教科もあります。私が高校生の頃にあった「リーディング」や「ライティング」といった科目がなくなったように、音楽科も改定のたびにその存続が危ぶまれる状況が続いています。
では、なぜ音楽科が学校教育にとって重要なのでしょうか?
新学習指導要領は「生活や社会と関わる学び」を重視していますが、音楽はまさにこの理念を体現できる教科です。音楽を学ぶことで得られるのは、美しい声で歌う力や楽譜を読む技術だけではありません。音楽を通して生活や社会の中にあるさまざまな課題や価値観を深く理解することができるのです。
音楽科はなぜ必要?「音楽」と「音楽科」の違い
「音楽が好き」という方は多く、YouTubeやライブ、カラオケなど、音楽は多くの人々に愛されています。しかし、「音楽が必要か?」と聞かれれば「必要だ」と答える方が多い一方で、「音楽科が必要か?」と問われると、答えに詰まる人もいるのではないでしょうか。
この違いを考えるには、「音楽」と「音楽科」という言葉を分けて捉える必要があります。
音楽は趣味や娯楽として楽しむものであり、その価値を疑う人はほとんどいません。
一方で、学校教育の中で「音楽科」という教科として学ぶ必要性については、しばしば疑問視されることがあります。
実際に、中学校3年生を対象にした調査では、「音楽の授業が役に立たない」と感じる生徒が一定数いるという結果が出ています。それでも、音楽科を学ぶことで、ただ音楽そのものを楽しむだけでなく、社会や生活の中で音楽が果たす役割について深く学ぶことができます。
「音楽」と「音楽科」は、一見一文字違いに見えますが、その意味するところは大きく異なります。音楽科では音楽を通して、自らの考えを深め、他者との関わりを見つめ直す力を育むことができます。この視点が音楽科の存在意義を裏付けているのです。
中学校での音楽科授業の現状と課題
音楽科が中学校で果たす役割は大きいものの、その価値が十分に伝わっていないのが現状です。例えば、平成25年に行われた「平成20年に告示された中学校学習指導要領の実施状況調査」では、「音楽の授業が役に立つか」という質問に対して、以下のような結果が出ています。
「どちらかというと思わない」27.7%
この調査結果は、中学3年生の約半数が音楽の授業に対して否定的な意見を持っていることを示しています。これが何を意味するかと言えば、音楽科の授業が生徒たちにとってその意義や重要性を感じられていない可能性があるということです。
しかし、音楽科は単に楽譜を読む技術や歌うスキルを学ぶ場ではありません。音楽を通して社会や生活に必要な知識や感性を深める学びの機会を提供するものです。例えば、音楽の授業では、知的財産権や税制、さらにはCSR(企業の社会的責任)など、他の教科では触れにくいテーマを学ぶことができます。
生活や社会と結びつく音楽教育の可能性
新学習指導要領では、「生活や社会と関わる学び」が重要視されています。この理念において、音楽科は極めて可能性を秘めた教科です。
音楽を通じて、知的財産権や税金、さらにはCSR(企業の社会的責任)など、生活に密接に関わるテーマを学ぶことができます。これにより、生徒たちは社会で必要な知識をより身近に感じながら習得できるのです。
例えば、知的財産権については、音楽を切り口にすることで堅苦しい概念を分かりやすく伝えることができます。また、税金については、音楽や文化をテーマにした事例を通じて、生徒自身の生活や社会とのつながりを考えさせる導入が可能です。CSRのようなテーマも音楽を入り口にすることで、自分ごととして捉えるきっかけを提供できます。
これらのアプローチにより、音楽教育は単なる「技術の習得」ではなく、より大きな視点で社会を学ぶためのハードルを下げる手助けをしていると言えます。
たとえば、動画「音楽科で教える知的財産権の内容とは?」「「文楽」をテーマに取り上げた授業」「音楽のオンライン授業実践編《教材:交響曲第5番ハ短調(運命)》」では、具体的な授業の事例を紹介しています。
さらに、音楽を通じて得られる学びは、学問的な知識だけでなく、生徒たちの価値観や感性にも影響を与えます。生活や社会を深く理解し、自らの考えを形成する力を育むために、音楽教育は非常に有効な手段となります。
世界の大学に学ぶ音楽教育の役割
音楽教育の重要性は、日本国内だけでなく世界の名だたる大学でも認識されています。
たとえば、ハーバード大学では音楽を「多様な価値観を理解する力」を育むための重要な手段と位置付けています。マサチューセッツ工科大学(MIT)では「創造的な思考力を育てる目」を、スタンフォード大学では「心理に迫る質問力」を音楽を通じて養っています。
これらの大学では、音楽そのものを学ぶことが目的ではなく、音楽を通して生活や社会の複雑な側面を深く理解し、自らの能力を発展させることが重視されています。音楽教育が「教養」や「専門知識」を超えて、未来を切り開く力を育む手段として活用されているのです。
日本でも、音楽を通して学びの幅を広げる可能性が指摘されています。例えば、動画「【教員におすすめ】教育分野以外のおすすめの本3冊」で紹介している、『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか』では、直感や感性の重要性について指摘しています。
また、音楽が人間の価値観や感性を養う学びであることは、教育現場においても見逃せません。「音楽を通して学ぶ」というアプローチは、音楽教育が学問としての深みを持つことを示しており、単なる趣味や娯楽ではない新たな可能性を提示しています。
音楽を通じて「聴き分ける力」を育む理由
音楽は人々を楽しませ、癒す力を持つ一方で、時に強力な社会的影響力を持つ「武器」としても使われることがあります。
たとえば、第二次世界大戦下では音楽がプロパガンダとして活用された事例もあります。このように音楽には心を動かし、社会に影響を与える特性があります。そのため、音楽を適切に聴き分ける力を育むことが重要です。
音楽の「聴き分ける力」とは、ただ楽曲を聴くことにとどまらず、その背景や意図、社会的な影響を理解し、自分自身で取捨選択できる力を指します。この力を養うことは、音楽教育における大きな目標の一つです。
たとえば、動画「音楽のオンライン授業実践編《教材:ブルタバ(モルダウ)》」では、音楽の歴史的背景や社会への影響を深掘りする授業例が紹介しています。このような取り組みを通じて、生徒たちは音楽の力を正しく理解し、社会の中での音楽の役割を考える機会を得られます。
現代においても、音楽が社会を動かす力を持つ例は少なくありません。
「花は咲く」や「We Are The World」のような楽曲は、音楽が感情を超えて社会を結びつける力を持つことを示しています。そのため、音楽科の授業では、こうした楽曲を教材として扱い、音楽が人々や社会にどのような影響を与えるのかを考えさせることが求められます。
音楽の持つ力を理解し、意図を読み解き、価値を判断する力を養うことは、情報が溢れる現代社会において欠かせないスキルです。音楽科を通じて育まれるこの「聴き分ける力」は、生徒たちが未来を生き抜くための大切な能力となるでしょう。
まとめ:音楽という教科が未来にもたらす価値
音楽は単なる趣味や娯楽ではなく、教育現場において社会や生活と深く結びついた学びを提供できる教科です。新しい学習指導要領が掲げる「生活や社会と関わる学び」という理念は、音楽科が教育現場で果たすべき役割を明確に示しています。
音楽科を存続させ、さらにその意義を広めるためには、私たち音楽教員自身が「音楽を教える理由」を深く理解し、生徒に伝えることが重要です。音楽が未来の社会を担う子どもたちに何をもたらすのかを考えながら、これからの音楽教育に取り組みましょう。
こ記事の内容は動画と同じです。
動画「音楽科が学校教育で必要な理由とは?必要性を5つの視点で解説!」も是非ご覧ください。
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