皆さん、こんにちは。一歩先ゆく音楽教育、原口直です。
現在は学校での教育研究の経験と、未来につながる新しい学びについて情報発信しています。
このYouTubeチャンネルでは学び続ける先生と学生さんのために、学校で役立つ情報と提案を発信しています。
今日は「学習指導要領から読み解く世代ギャップ」についてお話しします。
教員は「知らない人に学ばせる」ということを日常的に行っています。50歳の教員が小学校1年生(7歳)に学ばせる時、その年齢差は実に43歳差です。しかし、学ばせることができます。
それは「学習指導要領」を理解している、つまり学ばせ方・学び方を知っているからです。
保護者から子どもに学ばせる時、また、上司から部下に学ばせる時にうまくいかなかった経験はありますか?
「伝えたいことが、うまく伝わらない」
「相手が何を知っているのか、わからない」
「ルールを決めたり学ばせたりする時に、学ばせ方がわからない」
逆の立場なら「教わる時に、学び方がわからない」という時に、
学ばせる側は
「自分の学ばせ方が悪いのか」
「どうして、わかってくれないのだろう」
「納得しただろうか」
「10伝えても、半分も伝わっていないかも」
と手ごたえを感じないこともあるかもしれません。
逆に教わる側は、
「どうして、あんな言い方をするのだろう」
「何が言いたかったのだろう」
と考えることもあるかもしれません。
こう考えたのは、「子どもの携帯電話やPC等のルールを保護者が考えて、子どもが守らない」というニュースや「企業で指導する立場の人が若手社員やシニア人材のマネジメントに苦慮している」というニュースを目にしたからです。
年齢の差・考え方の差・生きた時代の差など理由は考えられますが、単に「団塊ジュニア・ゆとり・Z世代」といった世代の差(ジェネレーションギャップ)を『学習指導要領』という枠でくくり、「その世代がどう学んだか」「何を学んだか」を知って互いの世代差を考えるきっかけになればいいなと思います。
「学習指導要領の世代の差」を明らかにすることで『学んだように学ばせる危うさ』も同時に感じていただいて、年齢差がある誰かに何かを学ばせる時に頭に置いておくと、学ばせる側・学ぶ側のお互いのためによいと考えます。
これらの世代の間には学習指導要領の2~4次の差があります。
学び方や学ぶ内容、考え方が違うのは当たり前なのです。
この記事は、次のようなことを知りたい方に是非ご覧頂きたい内容です。
▶伝えたいことが相手にうまく伝わらない
▶相手が何を知っているのか分からない
▶ルールを決めたり学ばせたりする時に学ばせ方がわからない
この動画の他には、
音楽科について詳しく解説した動画です。
併せてごらんください。
学習指導要領とは?
まず、「学習指導要領」とは
全国のどの地域で教育を受けても,一定の水準の教育を受けられるようにするために,文部科学省が学校教育法等に基づいて,各学校で教育課程(カリキュラム)を編成する際の基準を定めたもの
です。
住んでいる場所や教わる先生によって、子どもが学ぶ内容が違ったら困ってしまいます。
「あの人はかけ算を知っているけど、私は知らない。」
「私は音楽を形づくっている要素を知っているけど、あの人は知らない。」
とならないように、定められているのです。
学習指導要領はおよそ10年に1度改訂されます。大枠の学び方に倣って、各校種や各教科の学び方や内容が決められていきます。多くの有識者等による議論や、一般の方からの意見が募集されます。
その時代の課題を反映させたり、長い目で見て将来どのような力を持つべきかなどを検討したりしていきます。審議の過程は、文部科学省のサイトで資料や議事録を見ることができます。
学習指導要領改訂のスケジュール
学習指導要領は「決まりました。発表しました。はい、4月から変えてください。」とはなりません。内容に沿った教科書を作ったり、国民に周知したりする時間が必要です。
もちろん、教員は新しい学習指導要領を読み込んで自分なりに解釈したり、文部科学省や自治体、学校や教科の研究会に出向いて授業や評価の方法を学んだり、すでにある教材を作り直したりしなければなりません。
私は在籍した附属学校で、先行して新しい学習指導要領の手法や内容を取り入れた授業を実践して広く発表しました。成功も失敗もさらけ出して、全国・各校の完全実施に向けてたたき台になるつもりで発表していました。
学習指導要領の区分の仕方
昭和22年の改訂を0とするか1とするかで、第○次という数値が異なります。
ここでは学習指導要領コードのコード付与のルールに従って、昭和22年を0とします。
今回は、昭和52年改訂の第4次から今まさに移行中の第8次を例に取って紹介します。
学習指導要領の変遷(世代別の特徴・授業数・学習教科・学び方)
学習指導要領×「世代」
一般的に「○○世代」と呼ばれる分け方はたくさんあります。
マーケティング用語として使われることもあり、よく耳にします。国内と海外で切り方が違う場合もあります。
学習指導要領×「授業時間数」
学習指導要領で定められる標準授業時数。わかりやすい数値の差から話します。
授業時数に含まれるのは、中学校の場合、各教科(国社数理音美体技家英)と道徳・総合・特別活動の合計です。数字の右にある矢印は、直前の学習指導要領からの増減をあらわします。
時数の増減と学力は単純に結び付けられないというのはご承知の通りです。そもそも「学力」という言葉の捉え方も世代によって様々です。
例えば第8次までは日本の歴代総理大臣をそらで言えることが学力の高さだったかもしれませんが、第8次はもう端末を持っています。ググればすぐわかるどころか、他の国の首相だって大統領だってすぐにわかります。
学習指導要領×「学習教科」
授業時数だけでなく、教科数の増減や意味合いも改訂と共に変化します。
教科ごとの時数の増減は先ほどの時数に関連します。
中学校音楽科は週2時間の時代、選択授業があった時代を経て、今は週1時間です。(1年生は1.3時間)
新しい教科が増えたという点に着目します。
第5次では小学校1・2年生で社会・理科が生活科になりました。
中学校ではそれまで男子は技術分野/女子は家庭分野だったのが、全員必修となりました。保護者世代の男性の中には家庭科を習っていなかったという人もいるかもしれません。
第6次では「総合的な学習の時間」が新しく入りました。
第7次では小学校で外国語活動が加わりました。
今期(第8次)で小学校の外国語が教科になり、全校種で「特別の教科 道徳」が新設されました。
今回、高校は取り上げませんが、知的財産権や著作権の関連で言うと高校で「情報Ⅰ」が必修になったことは大きな変化です。
「小学校でプログラミングが必修化されたのでは?」と思う人もいるかもしれません。○○教育や○○活動と「教科化」はまったく別ものです。
「プログラミング的思考を持つ」ということが書かれただけで教科化されたわけではありません。報道のされ方で誤解しないよう、必ず文部科学省の発表や原本をあたってください。
学習指導要領×「学び方」
最も重要な部分です。世代によって、「どう学んでいるか」は「どう学ばせるか」に結び付きます。各世代の特徴は図のようになっています。「学び方」は各世代の学習指導要領を象徴するキーワードを抜粋しました。
改訂の背景には、その時代の課題や前の世代の反省が活かされています。もちろんポジティブな理由で変化することもあれば、ポジティブな理由で変化しないこともあります。
まとめ:学習指導要領の変遷(世代別の特徴・授業数・学習教科・学び方)
学習指導要領の各世代の特徴はこのようになります。
教科はもちろんのこと、特別活動といった教科外の活動にも学習指導要領は言及していますし、そもそも学校に関わる全てを始めに「総則」という項目で示しています。
教員は学習指導要領に則って指導をしますので、各世代の学ばせ方に特徴があり、それぞれの学び方をした子どもたちに特徴が出るのは当然のことです。
保護者と子供/上司と部下が理解し合うためのヒント
保護者と子ども。
上司と部下。
などの「学ばせる側と学ぶ側」の関係。
うまく理解し合うには、お互いがお互いの学び方を知らなければなりません。
あくまでも、一つの例です。同じ学習指導要領で同じ人間ができるわけはもちろんありません。考える際の一つの参考として、お聞きください。
保護者(第5世代)が子ども(第8世代)を指導する場合
40代の保護者から、小6・中1の子どもに学ばせる場合です。
ここでは冒頭にあった「携帯電話のルールを決める」と想定します。
第5次の最も多い授業時数や新しい価値観でさらに増える教科の中、受験戦争・偏差値教育・就職氷河期を過ごした保護者の世代にとって「ルール」は上から示されるものであり、有無を言わさず守るべきものという考えです。
一方、第8次で育つ子どもにとって「ルール」とは、様々な価値観や膨大な情報量の中から、互いに意見を出し合い議論し納得させたりさせられたりしながら、権力や数に左右されることなく決めていくものです。
実際にアクティブ・ラーニングという学習形態では「答えのない問い」に向き合うPBL(Problem/Project Based Learning)問題/課題解決型学習が取り入れられています。
「携帯電話のルールを作る」といった答えのない問いに対しては、「親だから・子だから」という力の差はルールを作る過程では対等な立場に立って、冷静に話し合いを重ねていきたいものです。
保護者の「前にこう決めたんだから!」もNGです。
『変化に対応していく力』も第8次で育んでいます。一度決めたルールに何か問題が生じた時、分析・改善し対処していくことも子どもたちは学んでいくのです。
面倒くさい?どちらがでしょうか??
年上の上司(第5世代)か年下の部下(第7世代)を指導する場合
同じく第5次の下で学んだ上司から、第7次の部下の場合です。
ここでは「あいさつまわりを学ばせる」というシーンを想定します。
第5次は前述の通り、厳しい時代の中で育ち、さらに厳しい世代から指導を受けてそれを守ってきました。
第7次は特に「言語活動」が重要視されました。
私が教員になった時はこのころで、どの本を開いても・どんな教科でも・どんな研究会でも「言語活動」「言語活動」でした。相手を説得するために意見を述べ合ったり、資料を解釈して説明したり、自分の考えをまとめたり。音楽科でも言葉で音楽を批評することを大切にしました。
また、小学校から外国語を学ぶ一方、日本の伝統や文化についての理解も深めたのがこの時期です。
つまり、第7世代は他を知った上で、自分の意見を持ち、言葉にして表現することを良しとされてきたのです。
「あいさつまわり」という年末になるとカレンダーを紙袋いっぱいに入れて走り回るという行動は、第7次からするとその現象の理由を知りたいと思うところです。
「毎年恒例だから」とか「顔を合わせるのが礼儀だから」では納得できません。もしそうだとしても、理由や根拠を言葉で説明してもらい、自分で考えたりやってみたりした上で判断して、する理由を言葉で説明したいのです。
一方、大人ですから学ぶ側も学ばせる側の思考を理解したいものです。
第5次は前述の通りなので言語化はされない。
第7次はこれまで言語化されなかった「あいさつまわりをする理由や根拠」を自分で言語化して、これまでの慣習をより意義深いものにしたり、根拠を提示しながら慣習をなくして新しくよりよい提案をしたりすることが求められます。
面倒くさい?どちらがでしょうか??
年下の後輩(第7世代)が年上の先輩(第4世代)を指導する場合
このパターンもあります。職場で年上の人が年下の人に「Excelを教えて」という感じです。もっと上の世代のシニア人材に業務の内容などを指導する場合もこれにあたります。保護者が保護者の親(子どもから見て祖父母)に学ばせる場合も同じことが言えます。
ここでは「Zoomの使い方を学ばせる」場合を考えます。
学ばせる側の第7次の特徴は前述の通りです。
第7次の皆さんは、多様な価値観を受け入れる力を持っており言語化する力に優れています。多様な価値観を受け入れる力を、年上の世代の違う他者を受け入れることに使いましょう。
デジタルの世界観を、比喩や身近な表現を用いて言語化するところからです。
そして、この分野では第7次の方が知識を多く持っているということをまずは説明します。
知識量で勝負してきた第4次ですので、自分よりも知識量の多い人から学ぼうとする力は強いはずです。プライドや自己顕示欲が邪魔をしなければ、です。
第4次の学ぶ側で大切なことは「聞くこと」です。
年上年下という年齢による上下はいったん置いておいて、この分野での知識量の差を認め学ぶ姿勢を見せることです。
そして、わからない時は素直に「わからない」と言うのも大切です。第7次は言語活動で解釈・説明・説得の力を身につけています。何がわからないかを伝える事ができれば、きっと理解しようとするでしょう。
まとめ:子供のしつけと部下の指導に役立つ!学習指導要領で読み解くジェネレーションギャップ
学習指導要領は教員だけが持っているもの・知っているものではありません。
過去の分も含めてデータは公開されています。専門用語も多く量も膨大なので、初めての方には難しいかもしれません。
学習指導要領には保護者向けや子ども向けの要点をまとめたパンフレットやリーフレットなどもあり、文部科学省のサイトで見ることができます。大学生用に変遷の要点をまとめたサイトなどもあります。
年齢や時代の特徴のせいにして歩み寄らないのはお互いにとって不幸です。まずは、学ばせる側・学ぶ側がどのような教育を受けてきたかを学習指導要領から知ってみましょう。
記事の内容は動画と同じです。
動画「【上司部下・親子の人間関係に悩む人へ】学習指導要領違いから分析するジェネレーションギャップの解決法」も是非ご覧ください。
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