音楽で「生きる力」を育む。これからの時代に音楽科が必要な本当の理由

音楽という教科の必要性を知る【音楽の授業いる?いらない?】 教員のキャリア・研修
教員のキャリア・研修
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2020年度から順次施行されている新学習指導要領では、外国語教育やプログラミング、道徳の教科化などが注目されています。新しい科目が導入される一方で、削減される科目も存在します。

学習指導要領が改定されるたび、その存続が議論の的となる中学校の「音楽科」は、常に危機感にさらされてきました。

この記事では、「なぜ教科として音楽を学ぶ必要があるのか?」という問いに対し、私の考えや実践を基に、その必要性についてお話しします。

 

この記事は、次のようなことを知りたい方に是非ご覧頂きたい内容です。

▶タイピングや金融教育といった新しいスキルが重視される中で、音楽教育の優先順位に疑問を感じている方
▶中学校に教科としての音楽は本当に必要なのか、改めて考えたい方
▶生徒から「どうして音楽を学校で学ばなければいけないの?」と聞かれた時の答えを探している方

 

 

【音楽の新学習指導要領】音楽教員のための3つの改訂ポイント解説
2021年度からの中学校の学習指導要領の解説。「生活・社会と関わる音楽科」「口唱歌」「知的財産権」の3つの要点に絞って解説しました。
「オンガクカ」「音楽家」と「音楽科」の違いについて解説している動画
合唱指導の際、音楽家の場合は3つの視点が必要です。しかし、音楽科の場合は5つの視点が必要になります。いったい何が違うのでしょう?

 

 

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「音楽」は好き、でも「音楽科」は必要?

まず、「音楽」と「音楽科」という2つの言葉を分けて考える必要があります。

 

多くの人が愛好する「音楽」

「音楽は必要ですか?」と問われれば、多くの人が「必要だ」「好きだ」と答えるでしょう。事実、YouTubeでの音楽再生、CDやDVDの売上、ライブやエンターテインメント業界の盛況ぶり(2019年がピーク)を見ても、音楽が広く愛されていることは明らかです。

また、カラオケや、年齢を問わず人気の吹奏楽や合唱など、日本には音楽愛好家が非常に多いという調査結果もあります。

趣味を仕事にしたらどうなる?(音楽教員の場合)」の動画では、趣味としての音楽と仕事としての音楽の違いについて話をしました。趣味・仕事の違いを知ることで進路選択に役に立ったり、教員の立場で言うと進路指導に役に立つと思います。

 

教科としての「音楽科」

一方で、「音楽『科』は必要ですか?」、つまり「音楽を学校で教科として習う必要はありますか?」と問われると、疑問符が浮かぶ人も少なくないかもしれません。

この「科」という一文字が付くか付かないかで、話は大きく変わってきます。趣味として「音楽」を好きな人は多くいますが、学問・科目としての「音楽科」の必要性については、改めて考える必要があります。

 

中学校では生徒から色々な質問を受けました。純粋に音楽のことを知りたい・授業でわからないことがあるという質問もありますが、困らせてやろうと質問してくることもあります。「『なんで音楽を勉強するの?』生徒の困った質問にどう答える?授業で使える3つのヒント」の動画では、生徒からの困った質問3つを取り上げげました。

 

 

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音楽の授業は役に立たない? 音楽「を通して」学べることの価値

国立教育政策研究所が平成25年に実施した調査では、中学3年生の約半数が音楽の授業は役に立たないと考えている(「役に立つと思わない」18.5%、「どちらかというと思わない」27.7%)という、音楽科にとって厳しい結果が示されています。

https://www.nier.go.jp/kaihatsu/cs_chosa.html

 

しかし、音楽の授業では、音楽そのものだけでなく、音楽の周りにあるもの、またその先にあるものを「通して」学ぶことができると、私は考えています。

 

生活や社会とつながるための入り口になる

新学習指導要領でも重視されている「生活や社会と関わらせる」という視点において、音楽は非常に有効なツールとなります。身近な音楽を入り口にすることで、一見難しそうなテーマへのハードルを大きく下げることができるのです。

  • 知的財産権: 私自身の実践でも、音楽を切り口にすることで、堅いイメージのある知的財産権を自分ごととして学ばせることができました。
  • 税金、企業、ジェンダー: これらの社会的なテーマも、音楽を入り口にすることで導入がスムーズになり、生徒が主体的に考えやすくなります。

 

新学習指導要領で重視される新たな取組・学びについて、その全体像を「【新しい学習指導要領の●●教育】新たな取り組み・これから重視されること」で解説しました。

 

世界のエリートたちが音楽から学ぶ力

海外の大学では、専門分野以外の力を育むために音楽が活用されています。書籍『ハーバード大学は「音楽」で人を育てる』では、以下のような事例が紹介されています。

  • ハーバード大学: 多様な価値観を理解する力を育む
  • マサチューセッツ工科大学: 創造的な思考力を育む
  • スタンフォード大学: 真理に迫る質問力を育てる

 

また、書籍『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』の中でも、論理や理性だけでは勝てない「直感と感性の時代」において、芸術に関する見識を深めることの重要性が述べられています。

 

【教員におすすめ】教育分野以外のおすすめの本3冊
音楽教員歴10年の原口直です。教育実習生用の教育実習前に読むべき本については「【指導教員がおすすめ】教育実習前に絶対に読んで欲しい本」の動画で紹介していますが、今日は現職の先生に対して話をしたいと思います。教員としてというより、一社会人とし...

 

このように、音楽そのものを学ぶだけでなく、音楽を通して多様な力を育むことができるからこそ、音楽科は必要なのです。

 

 

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音楽は時に武器になる? 社会を生き抜くための「聞き分ける力」

音楽は心を和ませ、楽しませてくれる一方で、時に「武器」にもなり得ます。第二次世界大戦下で、大衆を扇動するために音楽が利用されたのは有名な話です。

だからこそ、私たちは音楽を聞き取り、それを取捨選択する「聞き分ける力」を身につける必要があると、私は考えます。

例えば、私が行ってきたスメタナの「ブルタヴァ(モルダウ)」を題材にした授業実践では、作曲された背景や作者の思いを学ぶことを通して、「社会を動かす音楽」について考えさせることができます。東日本大震災の復興支援ソング「花は咲く」や「We Are The World」といった曲に共通する音楽的な内容や、音楽が持つ力について考察するのです。

情報が溢れる現代社会において、物事の本質を見抜き、主体的に判断する力、すなわち『聞き分ける力』を養うためにも、音楽科は必要不可欠なのです。

 

【音楽の新学習指導要領】音楽科で教える知的財産権の指導方法の実践例
音楽教員歴10年の原口直です。知的財産権は新学習指導要領に載っています。教科書にも載っています。これまで知的財産権(著作権)の話は色々してきました。「【音楽の新学習指導要領】音楽教員のための3つの改訂ポイント解説」は、教育芸術社『中学校音楽...
音楽のオンライン授業実践編《教材:交響曲第5番ハ短調(運命)》
音楽教員歴10年の原口直です。オンライン授業実践の第2弾として、交響曲第5番ハ短調(運命)を取り上げます。第1弾・第3弾のオンライン授業実践は以下のページで紹介しておりますオンライン授業の第1弾【春 第1楽章】はこちらですオンライン授業の第...

 

 

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まとめ:音楽科の必要性を自ら問い続ける

新学習指導要領に「生活や社会と関わる」という文言が加わったことは、制度としてだけでなく、私たち教育者自身に対しても「なぜ音楽科が必要なのか」を問いかけているのではないでしょうか。

『音楽の記号や楽譜が読める』『美しい声で歌える』といった技術指導にとどまらず、その先にある『だから何なのか』という本質的な価値を、私たち自身が深く理解し、自信を持って語れるようになる必要があります。

この記事が、先生方一人ひとりが改めて音楽科の必要性について考えるきっかけとなれば幸いです。

 

この記事の内容は動画と同じです。
動画「【なぜ音楽を学ぶ?】AI時代に必須の「生きる力」が育つ、音楽教育の本当の価値」も是非ご覧ください。

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この記事を書いた人
原口直

東京学芸大学 附属学校図書館運営専門委員会 著作権アドバイザー/元・東京学芸大こども未来研究所 教育支援フェロー

東京学芸大学教育学部卒業後、大手芸能プロダクショングループ勤務を経て音楽科教諭に。
東京都公立中学校および東京学芸大学附属世田谷中学校で、教育実習生の指導、進路指導、「生活と社会に関わる音楽」分野の授業実践に取り組む。
会社員時代の経験を活かし、知的財産権教育に関する研究・発表も多数行う。

2020年春より、教室の外へとフィールドを広げ、YouTube・ウェブサイト・講演活動を通して、教員や教育実習生に向けた著作権教育コンテンツを発信中。

音楽文化事業に関する有識者委員会委員(JASRAC)/共通目的事業委員会専門委員(SARTRAS)

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