合唱指導は、音楽科教員が避けては通れない重要な領域です。
この記事では、合唱指導の「基礎の基礎」として、①準備、②音取りの手順、③指揮者の立て方の3つを解説します。どの校種・学年でも、また専攻を問わず活かせる内容です。
合唱指導の基礎とは、技法の前に整えるべき「土台」のことです。発声練習やエチュードなど発展的な内容は書籍やDVDに豊富にありますが、どんな場面でも共通して必要なのが、この3つの土台です。音楽教員歴10年の経験から、教育実習生の指導でも繰り返し伝えてきた内容をまとめました。
合唱指導が難しく感じる理由
合唱指導に苦手意識を持つ先生は、少なくありません。特にピアノ専攻の方は、これまで伴奏が中心で、自身が合唱パートを担ったことが少ないという場合が多いです。教育実習生でもそのような傾向がよく見られます。
また、声楽専攻だからといって合唱指導がすぐにできるかというと、そうでもありません。声楽専攻の技術と、合唱を「指導する」力は、また別のものだからです。
さらに、出身校によって合唱への意欲やレベルはさまざまです。合唱に力を入れた学校の出身者と、そうでない学校の出身者とでは、指導のイメージが大きく異なることもあります。
重要なのは、技法の前に「土台」を整えることです。この基礎の基礎がわかれば、どの校種・学年の合唱指導でも自信を持って臨めるようになります。
▶ 動画では0:25〜で合唱指導の背景と基礎の概要を解説しています
【教員を目指す人へ】ピアノ専攻の皆さんへ送るアドバイス
【教員を目指す人へ】声楽専攻の皆さんへ送るアドバイス
【教員を目指す人へ】管・弦・打楽器専攻の皆さんへ送るアドバイス
【教員を目指す人へ】音楽教育・音楽学・作曲などを専攻する皆さんへ送るアドバイス
合唱指導の基礎①:準備
全パートを自分で歌ってみる
ポイントは、どんなにソルフェージュ力があっても、実際に声に出して全パートを歌ってみることです。
自分が歌ってみて引っかかる箇所は、必ず生徒が引っかかる箇所です。特に女性教員の場合、男声パートをどう処理するかという判断も必要です。地声でそのまま歌うのか、オクターブ上げて歌うのかを事前に決めておきましょう。こうした準備が、指導の中での的確なフィードバックにつながります。
声楽専攻の方はノンヴィブラートで練習する
声楽専攻の方には特有の注意点があります。独唱ではビブラートをつけることが一般的ですが、合唱指導の場では、より正確に、そして生徒が聞き取りやすいように歌うことが求められます。
そうなると、ビブラートは時として伝わりにくさの原因になります。ノンヴィブラートで歌う練習は、声楽専攻の方にとって意外と難しいかもしれませんが、ぜひ取り組んでみましょう。
▶ 動画では3:03〜でノンヴィブラートの意義について解説しています
伴奏を自分で弾いてみる(または繰り返し聴く)
ピアノが得意でない方は、伴奏の見本音源を繰り返し聴くことで代替できます。大切なのは、「何が正しい演奏か」を体で覚えておくことです。
なぜかというと、子どもたちは音を間違えて弾いたり、リズムを変えて演奏したりすることがあります。臨時記号が抜けている、拍の長さが違うといった誤りに気づくためには、教員自身が正確な音を知っていることが必要です。歌声についても同様で、自分がやってみて初めて、生徒の間違いに気づける力がつきます。
合唱指導の基礎②:音取りの手順
音取りの手順を整えることは、合唱指導の質に直結します。毎回の指導で一貫した手順を守ることで、生徒は安心して練習に臨めるようになります。
ステップ1:目的を先に伝える
何をしたいかを先に言います。音程を正確に取ること、強弱をつけること、子音を立てることなど、その回の目的を明確にします。これが後の評価の基準にもなります。
ステップ2:開始位置を正確に指示する
楽譜のページ・練習番号・段・小節番号など、どこから始めるかを正確に伝えます。あいまいな指示は、生徒の混乱を招きます。
ステップ3:開始音を毎回丁寧に出す
開始音は、毎回省かずに丁寧に提示します。楽器専攻の方や絶対音感がある方は省略しがちですが、それは生徒にとっての大切な助けを省くことになります。
開始音の上げ方には様々なアプローチがあります。たとえば、主音などの取りやすい音をパートに関係なく全員で取らせてから、7音目・9音目といった複雑な音へ順に進める方法があります。生徒の発達段階や実力に応じて工夫しましょう。
ステップ4:入り方(息を吸う位置)を教える
特にアウフタクトで始まる場合、「音が始まる位置」ではなく「息を吸う(ブレスをする)位置」を教えることが重要です。歌唱において大切なのは音の出だしよりもブレスのタイミングです。この点を明示するだけで、入りのそろい方が大きく変わります。
▶ 動画では6:20〜でアウフタクトの入り方について詳しく解説しています
ステップ5:カウントの方法を統一する
カウントは毎回同じ方法で行います。たとえば6/8拍子を例にとると、「1・2・3・4・5・6」と6つで数える方法、「1・2・3/2・2・3」と2拍で数える方法など、複数の方法があります。どれを使ってもかまいませんが、一度決めたら日をまたいでも統一することが大切です。
音楽に精通した教員にとっては些細なことでも、生徒にとってカウントは非常に重要な情報です。毎回変わると混乱の原因になります。
ステップ6:目的と一致した評価をする
歌い終わった後は、最初に伝えた目的に対して評価します。強弱を目的にして歌わせたなら、評価も強弱について行います。
よくあるのが、目的と評価がずれてしまうことです。「強弱をつけて歌おう」と言ったあと、歌い終わってから「音程が外れていた」と別のことを指摘してしまう、というパターンです。生徒は強弱に集中して歌ったのに、まったく別の観点を評価されると戸惑います。目的と評価をイコールにすることを、意識的に守りましょう。
▼子どもたちに合唱をより楽しんでもらうためのヒントになる記事です。



合唱指導の基礎③:指揮者を立てる
指揮者の権威を教員自身が認める
合唱における指揮者は、その音楽において最も重要な存在です。この「指揮者は絶対」という考え方を、音楽科教員が自ら生徒の前で示すことが大切です。
具体的には、演奏が終わったあとのコメントをまず指揮者に求めます。教員がすぐに評価を述べたくなる気持ちはわかりますが、先に指揮者に「どうだった?」と問いかけましょう。教員はその後で、指揮者の言葉を補うかたちでコメントを加えたり、新しい課題を伝えたりします。
授業での積み重ねがクラス練習に活きる
合唱は、音楽の授業以外にもクラスで自主練習することがあります。指揮者は、音楽においては中心的な存在でありながら、他の教科では別の役割を持つ場合もあります。
しかし音楽科教員が授業の中で「指揮者は音楽活動において絶対的な存在」と示し続けることで、クラス練習でも自然に指揮者を立てるようになります。音楽科が授業の中で土台をつくることが、授業以外の場での自主的な活動を支えるのです。
▶ 動画では9:14〜で指揮者を立てることの意義を詳しく解説しています
▼合唱指導の基礎のその先にある応用編としてご覧ください。



まとめ:3つの基礎が合唱指導の土台になる
今回解説した3つの基礎を整理します。
- 準備:全パートを歌い、伴奏も確認する。声楽専攻の方はノンヴィブラートの練習も
- 手順:目的の提示から評価まで、一貫した段取りを毎回守る
- 指揮者を立てる:教員自身が指揮者の権威を示し、授業内で土台をつくる
発展的な発声練習やエチュード、歌詞解釈などについては、書籍やDVDを参考にしてください。優れた実践例が豊富にあります。まずは基礎を固めることが、すべての合唱指導の出発点です。
合唱指導に自信が持てると、担任の先生や保護者からも頼りにされる場面が増えます。合唱コンクールなどでクラスがよい演奏をしたとき、その喜びを一緒に味わえるのは、基礎を積み重ねてきたからこそです。ぜひ3つのポイントを日々の指導に取り入れてみましょう。

よくある質問
Q. 声楽専攻でもノンヴィブラートで歌う練習が必要ですか?
A. はい、必要です。合唱指導では、生徒が音を正確に聴き取れることが優先されます。ビブラートは独唱では有効ですが、合唱指導の場では伝わりにくさの原因になることがあります。ノンヴィブラートで歌う練習は、声楽専攻の方にとって意外と難しいものですが、ぜひ取り組んでみましょう。
Q. カウントの方法はどれが正しいですか?
A. 特定の方法が「正しい」というわけではありません。大切なのは、一度決めた方法を毎回統一することです。日をまたいでも、場所が変わっても、同じカウントで進めることで、生徒の混乱を防ぐことができます。
Q. 開始音は毎回出す必要がありますか?
A. 毎回丁寧に出すことをおすすめします。絶対音感がある方や器楽専攻の方は省略しがちですが、生徒にとって開始音は重要な助けです。特に合唱の音取りの段階では、開始音を省かないことが安心した練習環境につながります。
Q. 指揮者にコメントを先に求めると、授業の時間がかかりませんか?
A. 最初は少し時間がかかるように感じるかもしれませんが、授業の中で積み重ねることで、指揮者が自分の意見を整理して伝える力が育ちます。また、クラス練習での自主性にもつながるため、長い目で見ると指導の効率は上がっていきます。
この記事の執筆者・原口直の著書『歌いたくない生徒を歌いたくさせる 中学校音楽教師のための合唱指導』もあわせてどうぞ。
この記事は動画「合唱指導の基礎・基礎3つのコツ【準備・手順・指揮者の立て方】」をもとに作成しました。







コメント